とある獣医の豪州生活Ⅱ

豪州に暮らす獣医師のちょっと非日常を超不定期に綴るブログ

とある獣医の豪州生活Ⅱ

セキセイを 追いし内陸 三千里 ~3日目~

 

 

 

3日目の行程、参考マップ。

7月17日 (3日目)

Cloncurryの朝。気温は10℃。

前日よりは気温が下がった感覚はあるものの快適な朝を迎える午前06:30。寝袋2枚作戦は安眠を約束してくれるようである。ここは水道がある、つまり洗い物ができるので気兼ねなく鍋類を使い朝食にスープを頂く。

 

ミドリマキエインコ。まだ暗すぎて綺麗に撮れない。

朝食を食べていると目の前の水道から垂れる水滴を求めてCloncurry Ringneck parrot (Barnardius zonarius macgillivrayi)が登場。名前の通りこの周辺にしか生息していないインコで、名前の通り首の周りに白い輪がある。なかなかに癒しの空間である。何故レビューでボロクソ言われていたのかは未だに分からない。

 

この人はいつだって鳥を追い地を這っているんだ。

07:30頃に行動開始、本日の目的地は射程圏に収めてしまったが故に急遽行くことになった陸の孤島Bouliaである。Cloncurryの町のガソリンスタンドで安全を期して20L(@235.9c/L)給油して、まずはMount Isaを目指す。

 

Mount Isaにて給油。ガソリンがOPALに代わった。

08:45にはMount Isaに到着。内陸の中では大きな都市という感じの場所ではあるが、そこはやはり田舎の中ではデカいというだけであり日曜日の今日は大手スーパーを含めてほぼ全ての店が開いていない。足早に「今後400km給油場所がない」地へと足を延ばすべく、またしても給油する。23L(@219.9c/L)、満タンである。Mount Isaまでくるとガソリンの種類がOPALに代わっていた。これはアルコール依存症の先住民達がガソリン嗅いでラリるのを防ぐために、ガソリンとしての機能を維持しつつ芳香性化合物を1/5に抑えている内陸特有の謎燃料である。

 

Subwayを購入。3日ぶりの野菜。

Mount Isaを離れるとまた文明からかなり遠のいた生活が続くので、自分の希望でサブウェイに立ち寄り朝食。野菜全部乗せで食物繊維とビタミン類を補給する。冷蔵庫の無い生活が続くのですぐに野菜不足に直面するのである。摂れるときに摂っておこう。

 

赤い大地を突き進んでいく。

サブウェイを齧りながら車はどんどん南下していく。いよいよ本格的に乾燥した土地にはなってきているのだが、それにしては緑が濃い。やはり今年の雨量は多かったようで植物が生き生きとしている。

 

セキセイインコの群れ。いきなり飛び出してくる。

唐突に道端の茂みが道路に飛び出してくる。緑色の塊であったそれはセキセイインコの群れだ。なんとか当てることもなく車を停車するが、しかしてBouliaに向け始めてまだ5kmも走っていないのにもう出てくるか。期待感は上がる。

 

ハッチバックでも行けるもんだなァ。

どういうことかBouliaに向かうにつれて対向車の数がどんどん増えてゆく。あとで知ったことなのだがBouliaでは前日の土曜日に「キャメルレース」なるラクダの競馬、まぁここは競駝(けいだ)とでも呼んでおきましょうか(実際にそう呼ぶらしい)、これが行われていたそうで。帰路についてる車が沢山通り、すれ違う度に蹴り上げられた小石がフロントガラスに当たり、飛び石による連続技できあいのタスキを貫通しながら車は数ヵ所の小さなひび割れというダメージを負っていくのである。

 

フトアゴヒゲトカゲ。我々が来る前に車に当たったか。

道中の開けた荒野で数匹のフトアゴヒゲトカゲが道の脇でバスキングをしている姿を発見。今でこそ爬虫類飼育の入門種みたいな扱いの本種も野生で会おうとなると案外ガッツリと内陸を攻めないと会えない存在である。写真の個体は口から少量の血が出ていたので多分増えた交通量で路肩に出る車が多くなった結果、車に当たったと思われる。

 

Bouliaの中心街。一つ酒場があればそれはもう町なのだ。

アリススプリングスまであと800km」なる中々に感慨深い道路標識を通過しつつ、Bouliaの町に到達。道中の閑散具合を加味すると大きく栄えた町である。折角なので町の端から端までを歩いてみることにしたが、200mも歩かないうちに踏破できてしまったのでなんとも達成感が無い。

 

パブ(酒場)に入ってみる。QLD色が強い。

パブに入ってビールとコーラを頂くことに。日曜なので昼間から飲んでるローカル連中も散見されるが、よく考えるとそれは平日にも普通に見られる光景ではないだろうか。Bouliaの町はラクダ推しなのでここのパブにはラクダ肉を使用したキャメルバーガーなる幻のメニューがあると友人氏は語るが、いつ来ても品切れだと言われるらしい。

「今日はキャメルバーガー無いの?」

「ごめんなさいキャメルバーガーは売り切れよ」

「やはりか」

「ちょっと裏に何かあるか聞いて来るわね」

「おっ」

 

キャメルミートパイ。旗が可愛い。

「キャメルミートパイならあるわよ!」

「おぉ、冷凍されてたか」

「食ってみよう食ってみよう」

「じゃあそれ2つください」

 

ラクダ肉は美味しいが脂が重い。

ラクダ肉を使ったミートパイを食す。田舎のローカルパブでミートパイを食うというこの状況は客観的には中々絵になるものなのだが、いかんせん我々の興味は俄然目下のラクダ肉にあり、赤身の肉に若干の独特な酸味に似た味わいを感じさせるその肉はおよそ美味と分類されるのであるが、食べ進めるうちに気づかされるのはこいつの脂が非常に重く腹にのしかかってくるということであり、ミートパイ1つを食べ終わるころには「もうしばらく食事は良いかな」と思えるようなそんな不思議な肉であると共に、これもまた確実に言えてしまうことなのだが、じゃあ高額を出してラクダ肉を食うか通常値段で牛肉を食うかという選択肢を出された場合、少なくとも今後10ヶ月くらいは「じゃあ牛肉で」と答えるであろうそんな肉である。

 

ここを本日のキャンプ地とする。

キャラバンパークにて設営。相変わらずテント立ててるのは我々しかいないが気にしない。キャメルレース後も滞在している組が多く結構混雑していた。15:00には時間の余裕もできてしまったので、とりあえず散策に出ることに。

 

こんなところにオカメやセキセイは住んでいる。

しかしここは凄いところである。車を転がせばすぐにセキセイインコの群れに当たる。その隣を見上げればオカメインコたちがたむろしている。やれ右にセキセイだ、やれ左にオカメだと至る所で発見できてしまうが故に、車は一向に前に進まないのである。

 

セキセイインコの成る木。後ろも鈴生り状態。

セキセイのペア。足元のユーカリの洞に入ってた。

オカメインコの成る木。

オカメとセキセイの夢のコラボ。もうちょい寄ってくれ。

地面に下りて採食中のオカメ達。

日が傾き始めるまでたっぷりとインコ達を堪能した我々は、翌日水場に集まってくるであろう彼らを待ち受けるべく水場の偵察を行った後、日の出の前には現場に入ることを決意してテントへと戻って行った。

 

遠方にいたヒトコブラクダ。野生化した個体だと思う。

帰路の途中、遠くのほうにヒトコブラクダを確認。さっき食ったのはこいつらなのかと考えつつも、多分この個体は野生化してしまったラクダなのだろうなと思うともやもやするのである。本来オーストラリアにはラクダは棲息しておらず、移民が砂漠の移動手段として持ち込んだものの一部が逃げ出し野生化・定着してしまったものが多く存在し、特に換気に植物への食害が生態系へ大きく影響を与えてしまう侵略的外来種。そして皮肉なことに、本来の生息域であった西アジア北アフリカにおける野生のヒトコブラクダは乱獲と家畜化によって姿を消しているため、昨今で「野生のヒトコブラクダ」を見ることができるのは外来種扱いのここオーストラリアにおけるヒトコブラクダしかいない。

 

キャンプ地の横の川に溜まっていたトビ達

小魚キャッチ。3割くらいはこのあと落とす。

陽が落ちるまではテント横の川岸にたくさん留まっていたトビ達を観察するなど。夕まずめ時で水面に上がってきている小魚を盛んに襲って食べていたが、自分としてはトビ=ロードキルの死肉を食ってるイメージが強く、自力で狩りをしている姿は意外と新鮮である。

 

シーフードヌードル。美味い。

昼間に食べたキャメルミートパイが予想以上に重かったので夕飯はカップ麺だけで済まし、水辺が近いせいか日が暮れ始めるにつれて蚊が出始めたので19:10にはテントに撤退。やはり焚火が無いと夜が短いのだ。

 

インコ達が元気にお喋りしてる中で、内陸の冷える夜が来る。

明日は06:00から観察に出発して、1500kmの帰路に着くことになる。目標地点はWinton周辺…つまりはあの悪夢の土地Corfield周辺泊になるかもしれない。

 

ここまでの道のり。出発地点から約1500km。

 

 

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セキセイを 追いし内陸 三千里 ~2日目~

 

2日目の行程、参考マップ。

 7月16日 (2日目)

朝の気温は13℃であった。暖かい。

Georgetownの朝は13℃、余裕の朝を迎えた。前回の旅でCorfieldに怯えていた我々は打ち合わせなしで「ダブル寝袋」という共通の解決策に辿り着いていたものの、この日の朝は想像していたよりも格段と暖かかったため、最終的には2枚の寝袋のうちの1枚を剥いで寝る結果となった。

 

灰の中の残り火で朝の焚火。暖かい。

とはいっても流石に早朝は肌寒い。前日の焚火を掘り起こして新たな木をくべて復活させ、暖を取りながら軽い朝食を頂き、早々にテントを畳む。朝露が降りることもなく乾いたテントの撤収は幸先が良い。

 

Georgetownの朝焼け。

畔を一周してみても良いのだが、特にコレといった鳥の姿も無ければ声もしない。

 

畔も平和である。鳥はまばら。

「今年は雨が多かったからまだ水場に集中してないかなぁ」

「早々に進みますかぁ」

偵察もそこそこに、07:50には現地を出発することに。

 

周りがようやく起床し始めた中で早々に撤収。

キャンプ地点を出発し、車を更に西に向けてまずは給油地点となる近隣の町Croydonへ向かう。道中は普段よりもワラビーの轢死体が多いイメージが強かった。

「なんか轢死体多いなぁ」

「雨降ったからこいつらも増えてて、相対的に事故も多いのでは」

 

地平線に向けてひた走る。

Craydonへの道中。

「あと10kmくらい行ったところで畑があるんだけど、前にそこで大量のオカメインコが集まってたことあるんだよなぁ」

「何かいるといいですけどねぇ」

「もうすぐ見えてくる…おぉあそこだ、何か溜まってるぞ」

「いっぱいいる…モモちゃん達(モモイロインコ)ですなぁ」

「いやいや、奥にクロオウムもいっぱいいるぞ」

 

アカオクロオウム。200羽くらいで群れていた。

まるで東京のカラスが大量のゴミに群がっているかのように、畑にはクロオウムが200羽ほど群れていた。ぺーぺーと騒がしく喚きながら地面に降りてなにやら採食したり枝に止まって羽繕いをしている。普段からクロオウムはよく目にしているが、ここまで集まっている姿は中々に圧巻である。

 

クロオウムに別れを告げて、そのままCroydonの町へ。次の給油地は200km先になるので、ここで満タンまで初の給油。田舎町なのでガソリンの値段は跳ね上がっているが、背に腹は代えられない。

 

Croydonにて初の給油。228c/Lで74.06ドル。

旅に出る前の大雑把な作戦としては、Croydonを経由後はKarumbaまで横断して海に沈む夕日でも見るか?みたいなことを言っていた我々であったが、何しろGeorgetownの出発が想像以上に早かったこともあり随分と早々にCroydonに着いてしまったのである。そこで予定を変更して、「このまま今日の宿泊予定地(仮)であるFour Waysのロードハウスに向かってしまおう」という方針になった。はやくも我々の行き当たりばったりなノリが計画を変更へと導き始めたのだ。

 

轢死体にしゃぶりつくノネコ。豪州の生態系に猛威を振るう外来種

CroydonからNormanton方面へひたすら西進を続けている道中、明らかに様子のおかしい轢死体を避けたところで車を停止しUターンをする。死体は明らかに車に轢かれたワラビーのそれではあったのだが、その隣に見慣れぬ中型の生物が居たからである。確認してみると、それは猛スピードで突っ込んできた我々の車にも怯まずに死体に齧り付くノネコであった。顔面からぶつかったであろうワラビーの砕けた顎部分をゴリゴリと齧っているその眼からは鋭い野生の眼光が光っているのであるが、いやはや流石に本場のノネコはデカい、8kgほどは余裕でありそうなその巨体は全身が筋肉で覆われており、もはや軒下で昼寝をしている所謂『ノラ猫』のそれとはあからさまに逸している別の生物なのである。学術的な価値を感じたので写真を数枚撮っているうちに、ノネコは一瞬でトップスピードになるスプリントを見せつけて2秒後には道脇のブッシュの中に溶け込んで消えた。

 

12:50には第二目標であったロードハウスに着いてしまった。

83号線に合流してT字路を左折、本格的に南下を開始するも道路のコンディションはすこぶるよろしく、これといった休憩を必要としないまま突き進んでしまった結果、「今日の目標地点にしようか」などと言っていたBurke & Wills Roadhouseにも昼過ぎには到着してしまう事態に。とりあえずトイレを借りて、新たに作戦会議である。行き当たりばったりが過ぎる旅なのだ。

 

前回ここに泊まった時はワンコが枝を投げてくれとうるさ可愛かった。

「どうしよう、ここに泊まるか先に進むか」

「まだ時間・体力・燃料全てにおいて全然走れますねぇ」

「ここに泊っても特に何が見れるってわけでもないしなぁ」

「Cloncurryまで走っちゃいますか」

「宿泊場所を見つけないとなぁ」

プランCへと突き進む。

 

ロードハウスから更に南下した道中で第一セキセイを発見。

ロードハウスを後にしてCloncurryへと再び南下を開始して15分経った頃、まずは上空を飛ぶオカメインコを数羽確認。その後、道端で緑色の鳥の一団を発見する。追い求めていたオカメとセキセイの出現に、いよいよ内陸に突入してきた感が強まる。

 

道路脇に車を停めてセキセイを追いかける我々。

どこまでも抜けるような青空とそれを突き刺すように地平線まで続く道路の上を、セキセイインコ達がキュイキュイと嘲笑しながら飛び回り、遠くから順光になるようにそれらを追いかける怪しげな日本人2人がそこにはあった。

 

第一セキセイインコ

セキセイインコ達と戯れつつの休憩を満喫し、そのままCloncurryの町に到着。道中で助手席のJ氏が調べた結果、この町にはここ2週間のレビューで見事に☆1つを数回獲得した「Grumpy old man(怒りっぽいオッサン)」と評されたオッサンの経営するキャラバンパークがあることが判明。低姿勢、低予算、低カロリーの「3低」を旅のモットーにしている我々にしてみればこれはもうおそろしく興味をそそられる内容なので、肝試し感覚でここに宿泊を決定するのに要した考慮時間は2.71828秒にも満たなかった。

 

Wal's Caravan Park。レビューは決して高くない。

果たしてどんなGrumpy old manが出迎えてくれるのかと大いに期待していた我々は失望する結果となる。受付は無人式、入場料を置いて入ってみるとそこはほとんど人のいない静かで開放的なキャンプサイトであり、飲料ではないが至る所に水道が設置してあり、トイレも綺麗でシャワーからはお湯が出るという歓迎っぷりである。

 

ここをキャンプ地とする。

「ここすげぇ良い所ですよね」

「なんでレビューがあんなにボロクソ言ってたのか分からない」

「今にWalが現れてボロクソ言われるんでしょうかね」

「期待できるなぁ」

 

車椅子に乗って愛犬と共にWal登場。宿泊客のオバちゃんと談笑してる。

「お、あの車椅子に乗ってるのがきっとWalですよ!」

「オバちゃんと談笑してるぞ。全然Grumpyじゃない」

「こっちには会釈してオシマイでしたね」

「レビューに騙された。というか数日前の奴らは名にやらかしたんだ」

「ちゃんと『Friendly old pal』とかレビュー書いておいてください」

 

消沈する我々を尻目にモモイロインコ達は羽繕いに精を出す。

想像、というか期待していた癖の強いオッサンとのエンカウントが成らず、煮え切らないまま夕方になり寝床に集まってきたモモイロインコ達の観察をして、いそいそと夕飯を食べる我々。ここでは焚火はできないので、やることといったら食うことと写真の整理くらいしかないのである。

 

夕日が沈んでいく。明かりが無くなったら寝るしかないのだ。

「明日はどうしましょうかね、今日こんなところまで来ちゃってますけど」

「うーん、当初の予定ではWintonだったけど、すぐに着いちゃうよなぁ」

「前回オカメが営巣してたところでも目指します?」

「Bouliaまでもここからなら行けちゃうよなぁ」

「おー、Boulia。行ったことないんですよね。行っちゃいますか!」

「行くかー」

 

 

夜の帳が降りる少し前の約2分間でまたしても予定が狂ってしまい、気づけば我々は当初の目標であった2000kmの旅をなんだかんだで3000kmに伸ばそうとしていたのである。

 

 

 

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セキセイを 追いし内陸 三千里 ~1日目~

それは7月12日の火曜日、急患の対応に追われ溢れる手術に追われ、帳面上ではあることになっている30分の昼食休憩という概念が光の速さで虚空へと消えて行き、いつも通りの勢いに身を任せた仕事終わり、ようやくその日初めてちゃんとした固形食を食べたと思われる夕食後に携帯の着信音一つで始まったのである。

 

「スクールホリデーっていつ終わるの?」

 

唐突に友人氏から届いたそのメッセージは、前後の文脈が皆無の怪文書めいた内容であった。

 

「今週終わってません?」

「そうなのか。終わったなら内陸行けるかなー」

 

どうやら学校の冬休みが終わっているならキャンプに赴いても人でごった返していることはないから内陸にでも行くか、といったような内容であるらしい。この人はいつだって前触れもなく唐突に物事が始まるし、逆に唐突に物事に巻き込んでも乗ってくるのである。

 

「ワイ氏に唯一時間があるとすれば今週末なんですが」

「行くかー」

「行きましょうか!」

 

かくして内陸へのキャンプ旅は出発まで60時間というタイミングで予定が立ち始めた。

 

当初の予定。これだけ小さく円を描いても2200kmある。

7月のオーストラリアは冬である。この時期になると普段は内陸の奥で生活しているオカメインコセキセイインコが北上してくるため、ケアンズを出て内陸をグルッと一周しながらテントを張り、3泊4日ほどで旅をしながら鳥でも探そうじゃないか、そんな雑な立案が旅立ちおよそ59時間50分前に唐突に決まったのである。

 

尚、道中には前回その寒さに打ちのめされた悪夢の地Corfieldがその雄々しい姿で立ち塞がっており、我々は出発前から「寒さ対策だけは万全にしていこう」という、普段では余り見られない予備的動作・予備的思考が見られたのである。

 

 

7月15日(1日目)

CairnsからGeorgetownへ。400kmもない短い行程。

初日は金曜日だがCairns show dayと呼ばれるローカルの祭日につき祝日。この日はGeorgetownの偵察に行くだけなので朝の08:30からノンビリとスタート。Georgetownには何度も行っているので特筆することも無い「いつもの道中」と化している。

 

Ravenshoeのいつものガソリンスタンド

そして大体8‐9時辺りからゆるゆると出発すると、Ravenshoeに到着するのが11時頃になり、絶妙な具合に「車中の暇」と「空腹感」がミックスされた結果、ここでとりあえずチップスを食うというのが我々のいつもの流れとなっているわけです。

カウンターでポテトを買って奥のトイレ行って帰ってくる。

前まではWedgesがあったのだがコロナの影響なのか他の理由なのか、ここ最近は普通のフライドポテトしか売っていないのである。悲しい。ここのWedges美味しかったのに。それでも普段通りにカウンターでポテトをオーダーして、奥のトイレに行ってからそこらで売ってる雑貨に「どういう需要なんだ」「なんだこの謎商品は」などと鋭利なツッコミを入れていると、カウンターのオバちゃんが揚げたて熱々のチップスを手渡してくれるのだ。

Steak Burgerも頼んでみた。可もなく不可もない想像通りの味。

この旅の運転手は基本的に若手()である自分である。バーガーを片手に、隣に置かれたチップスをつまみつつ、車はひたすらに西へとひた走る。こうした道中で綺麗な景色とかは期待していないので、我々としてはひたすらに「なんか道端に飛び出してこないかな」という期待ばかりをしているのであるが、残念ながら今回の道中ではこれといった爬虫類や哺乳類が飛び出してくることはなく、幾何のワラビーの轢死体をスルーするだけに終わってしまった。

Georgetownの行きつけの肉屋。行列である。

Georgetownに到着。我々の宿泊地は町から更に数十キロほど西に向かったところにあるのだが、この町に着いたら必ずやらなくてはいけないことが肉屋にご挨拶することである。ここの肉屋は「肉フックに吊られたお肉が出てくる」「店主のヒゲが格好いい」という2点においてとても魅力的なのだ。

お値段は都会のスーパーと同じ。前はもっと安かった気がする。

「何が欲しいんだ」

「どうしよう。フィレとか行っちゃう?」

「うーん、ランプとかで良いんじゃないですかね」

「ランプか、どれくらいの厚さだ」

「どう説明すればいいんだ」

「ステーキサイズで2人分に分けてもらおう」

本日のお宿はいつもの水場。

無事にお肉を手に入れたらGeorgetownの町を過ぎて「いつもの水場」へ。トイレが常設されているここは色々な旅人達が無料でキャンプしている場所なのだが、なんということでしょう、現場に14:00頃には到着したにも関わらず辺りにはキャラバンカーが沢山止まっているじゃないですか…

ここをキャンプ地とする!

なんとか空いている土地の自治権を主張し、ピカピカのキャラバンカーに囲まれる形でちっさなテント村を設営するのである。

水場は普段以上に満ちていた。今年は水が多い。

まだ日も高い午後2時からピカピカのキャラバンカーに囲まれていると、お前ら本当に旅する気あるのかと問い詰めたい。我々は良いんですよ、水場にどんな鳥が来るのかを偵察するために目的をもってここに来てるんですから。君達はさ、これといった「設営」みたいな作業も無いのになぜ我々よりも遥かに早くから根を張って椅子出して本を読んでいるのかと。

 

ハゴロモインコの雌。

設営も終わって周囲を見回しているとやはりデカめのカメラを持った初老の男女が2人、草木をかき分けて歩いてきた。すると茂みからバサバサッ!とインコの飛び出す姿が。そちらに見向きもしないで先へ進むカメラ2人組。あそこまで野生動物の動きに気を取られず、それでいてカメラを所持している彼らは一体何を撮りにきたのであろうか…望遠装備だったしマクロレンズ持ってなかったから昆虫勢でもないよなぁ…

ホオアオサメクサインコ。ハゴロモインコの隣で採食してた。

2人が消えると再びハゴロモインコが茂みに降り立って採食。続いてホオアオサメクサインコが2羽で降りてきて採食。めっちゃもさもさ食いまくってた。大食漢。

火おこしの儀。8歳の頃からの特技。

我々もお食事にするために薪木を拾い集めてくる。近場の木は焼き尽くされているので涸沢の奥に入って行くと昔の増水で流されてきたのであろう枯木が沢山見つかるのでそちらを拝借し、ちょいちょいと組み上げて、焚き付けは道中で買ったチップスの紙箱を使用。

焚火で炙った肉塊を屋外で食う。

肉屋で買ってきた肉を網で焼けば、そこには平和と幸福が具現化されるのである。ユーカリの枯木で良い感じにスモークされつつ炙られたステーキは最強。『キャンプとは手段であって目的ではない』と常日頃から言っている我々ですが、もう最近ではこの肉を焼くという部分に関しては完全に目標と化してしまってきているので、果たして上記の言葉を信念強く言えるのかどうか、自分の中ではなかなか揺らいでいる。

太陽が沈むと内陸の寒い夜が来る。

飯を食い終わるころにはじわりじわりと赤色が紫色に浸食され、辺りは暗くなっていく。周りのキャラバンが天井の蛍光灯を煌々と照らし、冷蔵庫を開けてディナーの準備を始める傍らで、我々テント族はいそいそと歯を磨き厚着をして寝袋を広げ、やれ今夜はあまり冷えなさそうだだの、やれ朝露はいやだだのと言葉を漏らしつつ、消えゆく大空の灯りを頼りにいそいそと各々のテントに身を潜らせ、キャラバンの談笑の奥に聞こえるアオバネワライカセミのせせら笑いに耳を傾け夜の寒さに怯えながら20時には就寝する健康民族と半ば強制的に変貌するのである。

 

 

 

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