とある獣医の豪州生活Ⅱ

豪州に暮らす獣医師のちょっと非日常を超不定期に綴るブログ

とある獣医の豪州生活Ⅱ

ハイイロハヤブサを求め赤き内地へ

それは唐突過ぎると言っても全くもって過言ではない友人J氏の一言だった。

J氏「今度の連休いつ?内陸攻めるぞ、Opaltonに行こう。T君も行くよ」

 

胸三寸、鶴の一声。大体これで旅の予定は決まってしまうのである。観光業を生業としているJ氏、並びに友人T君共々、残念ながら現在も続くCOVID‐19の影響で鎖国を貫いているオーストラリアにおいてお仕事は中々存在せず、かといってロックダウンも緩和されて鬱憤だけが積もる今、助成金を元手に何かしらの大義名分と共に何所かに行きたい気分でいっぱいなのであろう。よかろうよかろう、それならばワタシとてこの機に乗じて無料ガイドを2人もつけた豪華な国内旅行を満喫してやろうではないか。

 

かくして野郎3人、内陸への放浪旅は発案1週間という超速で実現してしまったのである。社会人が3人寄ればスケジュール調整等も難しい筈なのだが、これが簡単にいってしまうことは悲しむべきか喜ぶべきか。

 

 

目的地

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今回の目的地。人が住んではいけないような内陸。ヤベーところ。

 

最近よく巻き込んでいただいているこの3人旅であるが、J氏T君共にバードウォッチャーなので基本的には鳥を追いかける旅である。今回の目的地はOpalton。昔はオパールの採掘が盛んだったことから町の名前にOpalが含まれている、そんな町。

 

っつーか町とかじゃない。村。

村でもないんじゃないかね。もうね、ただの荒野

 

そんでもって我々は別にオパールに興味は無いんだよ。追いかけるのはGrey falcon、ハイイロハヤブサFalco hypoleucos)です。多分オーストラリアで一番見つけることが難しいハヤブサだとか。鳥のこたぁそこまで詳しくはないが、もうなんか荒野に突撃してキャンプ敢行するのは楽しそうじゃないですか。だから参加するのよ。

 

3泊4日、赤い大地と熱砂と寒波のキャンプ生活です。

 

 

 

7月17日 (金) ‐ 一日目

ケアンズにおいてはこの日はCairns Show Dayと呼ばれるローカルの祭日で仕事が休みだったので、これはしめたとばかりに予定地へ向け早朝から出発です。自分は翌週の月火水が定休なので、有休消費もないままの6連休に入ります。オーストラリアの休日の量は控えめに言っておかしい。

 

0630、T君の運転するXTRAILに乗ってケアンズを出発。

目指す地はおよそ1000km離れた荒野のため、初日はできる限り目的地に近づきつつキャンプが可能と判断されたCorfieldの町。これでも750kmくらいの走行距離になります。オーストラリアはとにかくデカくて広い。

 

 

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T君運転でガンガン荒野を進む。自分は爆睡。

途中で給油を挟みつつひたすら100km/hの速度で砂利道を突き進むT君。少し前に似たような砂利道の対向車が蹴り上げた小石でフロントガラスにヒビが入っているこの車、HPが1しか残っていない状態で何故こんなところに来てしまうのか。

そして後部座席の自分、前日電話当直だったこともあり爆睡。なんかすまん。あれなんだ、大学生の頃に「移動時間は睡眠回収時間」という生活を刷り込まれてしまったから車はひたすら寝る体質になってしまってるんだ…すまん…

 

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どこまでも続くまっすぐな道と地平線。あとカンガルーの轢死体。

道中、恐竜の化石で観光名所となっているヒューエンデン(Hughenden)の町を通過。

通過である。ミュージアムに行くやらアンモナイトを買うやら、そんなことはしない。

我々にベタな観光をする気はないのだ。この集まりにおいて出費とは「最低限の食糧代」「最低限の宿泊代」「最低限の燃料費」「好奇心をくすぐられるネタ」の4つ以外にあり得ないのである。なんとも低姿勢な旅のモットーである。

 

なのでヒューエンデンではスーパーによって最低限の食糧を買うに留まる。この先には食糧はおろか飲料水すら手に入らない荒野が待っているのだ。

 

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好奇心しかくすぐられないモノを売っていた。値段は1/3程。

 

J氏「なんだこれ」

 

T君「Blue Bear(ブルーベア)ってなんスか…」

J氏「みたことのないエナジードリンクだ」

自分「これアレっすよね。完全にレッドブルのパチモンですよね」

J氏「ブルに対抗するとベアなのか…」

 

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ブルーベア。謎の飲料である。表記には何故かロシア語が。

J氏「とりあえず買っておくか」

T君「ですね」

自分「それ必要最低限なんです?」

 

 

無事に必要最低限の買い物を済まし、これまた恒例となっている「訪れた町の肉屋」の査定と肉の購入を経て(肉フックがあるのは評価されるがショーケース等がモダン過ぎてあまり心に刺さらなかった)、目的のキャンプサイトへ。 

 

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野生のエミューの群れ。T君がエミューを呼ぶ踊り(アドリブ)で集めたところ。

道中でエミューの群れが寄ってきた。フェンスの向こうにいるが勝手に放牧地に侵入しているだけの野生である。T君が車を降りて「エミューを呼ぶ踊り」で集めたところ。こいつらは意味不明に好奇心旺盛なのでちょっと不可思議な動きをすると確かめようと寄ってくる。可愛い。

 

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Corfieldの無料キャンプ場に設営。トイレあり、飲み水無し。

日がじわじわと傾きだした頃に、道中のCorfieldに到着。今夜はここの無料キャンプ場に設営して一夜を明かします。それぞれが個人テントを設営。キャンプ場と言っても低姿勢がモットーなのでキャンプファイヤーを囲んでレジャーアクティビティをするみたいなノリじゃありません。テーマは「生きる」です。

 

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人のいない、建物のない地平線に陽が沈む。

陽が沈むまで、キャンプ場の隣りにある、というよりCorfieldに唯一存在理由がハッキリしている酒場を冷やかしに行く。店主のオバちゃん曰く、ここの総人口は5人らしい。それはもはや集落とかそういうレベルのモンじゃないよね…。

 

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初日の晩飯。みんなそれぞれ鍋で作り鍋で食う。

そして陽が傾いてきたとき、一抹の不安要素がよぎる。気温が急激に下がってきたのである。荒野の広がる内陸の、南半球の真冬なので勿論気温が下がることは予測していたわけではあるが、不安である。

各自で早々にメシをかき込み、雑談も早々に1830には各自のテントに潜り込み寝袋に包まれた。

 

 

7月18日(土) - 二日目

寒い!!!

何度も目覚める夜であった。足が寒いのである。つま先からやられるのである。寝袋+靴下を履いて寝ていても。怖い。Corfield怖い。内陸怖い。

どうやら状況は皆同じ様子で、陽も出ぬ朝6時に起床後、大した言葉も交わさず黙ってテントをたたみ早々に車内に退避する3人の姿がそこにはあった。

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予想を上回る寒波に心を折られた3人。

T君「車の外気温度計2℃ってなってますよ…」

J氏「もうBlue Bearをキメるしか無ぇ」

自分「Blue BearキメたらT君がドリフトかまし始めるのでやめてください」

 

まだまだ暗いため道に飛び出すカンガルー達を避けつつ、不穏なドラッグの隠語を出しながら目的地を目指す。

 

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目的の鉄塔に到着。もうハヤブサは飛び立った後であった。

0930、目的の鉄塔付近に到着。ここに例のGrey falconが営巣しているという情報でこんな訳分からん内陸まで来ているのだ。しかしハヤブサたちの姿は既になく、巣だけがチョコンとある状況。どうやら日の出とともに狩りに出かけている模様。

 

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近くのLark Quarry国定公園へ。

鉄塔を見ていても仕方ないので近くの国定公園へ。ここには世界で唯一の「恐竜の群れの足跡」の化石があり、多分そっち系の人には中々興味深いところらしい。実際この内陸の一点に結構な来客があった。しかし低姿勢をモットーとする我々に入場料を払う概念は存在しない。施設の周りを一周歩けるコースがあったので、とりあえず歩いて内陸を味わうことに。

 

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地平線まで続く赤い荒野。これこそ内陸よ。

赤い大地をテクテク歩く。特にこれといった鳥や動物の気配もなく、ただただ静かで美しい大地。草木がしがみつくように生きている。気温は一気に上がってきた。

 

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勿論こいつらもいる。

T君「なんか周回ルート外れてません?」

J氏「え、こっちじゃないの?」

自分「こんな崖登るルートじゃなかったのでは?」

T君「JさんまだBlue Bearキメてなかったですよね?」


 ちょっと道を外れかけたところでBlue Bearの立ち位置は決まった。

 

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鳥を求めて道なき道を行く。

周回ルートの後はその辺のブッシュに突っ込んで探鳥。

こういう環境にオーストラリア原産の内陸系ヘビやトカゲは住んでいる。どこも彼処も水分が切れて息絶えた倒木だらけで、どこを切り取っても良い感じのビバリウムのレイアウトのように美しい。爬虫類には出会えなかったけど。

 

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椅子を展開しGrey Falconを待つ。

鉄塔に戻りノンビリと待っていたら、奴らは突然姿を現した。

 

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遠い。自分のカメラでは限界。

ハイイロハヤブサ。色がハッキリしている個体が2羽と、薄い個体が2羽の合計4羽が戯れていた。ペアとその子供であろうか。絶滅が危惧されるこいつらを見ること自体が相当レアだと言うが、その辺の情報には疎いからよく分からん。とにかく巣立ってもシッカリと生き残ってほしいものである。

 

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肉の神を召喚した2日目の夜。

陽が落ちてきたので設営。ステルスキャンプ。

昨日の夜は寒さにヤラれて散々だったが、この日は暗くなってきても昨日のように「やべぇ寝袋入らないと死ぬ」といった危険な香りはしなかったので、皆で腰を下ろしてヒューエンデンで購入した肉を焼くことに。

おぉ肉の神よ…。

吹き曝しのアウトドアでつつく焼いた肉は何故にこんなに美味しいのか。

 

明日早朝、日の出の前にテントをたたみ鉄塔を目指すことに決め、靴下を3重にはいて寝袋に潜り込む。

 

 

7月19日(日) - 三日目

 

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内地にこぼれる朝の訪れ。

J氏「どうだった?」

T君「快眠でした。暖かかった」

自分「昨日は2:8で負けたけど今日は10:0で勝ちだわ」

 

昨日の寒さは何処へ行ったのか。これは場所が違うからか、覚悟と装備が違うからか、それともただの運なのか。とにかく安眠を得た我々は早々にテントを畳んで例の鉄塔へ。

 

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鉄塔偵察中のJ氏。

例の鉄塔では4羽がそれぞれノンビリと朝日を待っていた。厳しい環境に住んでるなぁ、よく寒くないなぁ。昨日出会ったバードウォッチャー曰く、昨日は朝8時くらいに一斉に飛び立っていったとのことなので、羽ばたきと滑空の写真を押さえたいJ氏・T君と共に、それくらいの時間まで車内で風を凌ぐことに。

 

すると。

 

7時20分、幼鳥の1羽が暇を持て余したか明後日の方向へ飛び立ち、それに触発されて残りの3羽も一斉に鉄塔から彼方の荒野へと飛び立ってしまったではないか。焦るJ氏とT君の健闘も虚しく、写真には収められなかった模様。

 

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仕方ないので他の鳥を探す。T君のテンションは低い。

T君「なんかもう本当に俺は駄目なんスよ…」

J氏「いやいや、大丈夫だって。明日の朝もこの辺にいようか」

自分「明日は交替で運転すれば夜には帰れるから!」

T君「いやぁもう撮れる自信無いです…」

自分「分かった、もう1泊増やそう。そうすりゃ2チャンスあるぞ」

J氏「とりあえずBlue Bearキメとく?」

 

あからさまにテンションが駄々下がりのT君。こうしてキャンプの日程があれよあれよという間に1日増えたのである。

 

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野生のキンカチョウが成る木。

自分「お、なんか鳥の群れが横切ったぞ!」

J氏「キンカチョウだね」

T君「キンカチョウは…まぁ先週撮ったしなぁ…」

 

テンションは上がらない。

 

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鳥たちのテンションは割と高い。

J氏「よしじゃあセスジムシクイを探しに行こう」

T君「それは写真撮りたいです」

自分「行こう行こう」

 

ちょっと持ち直してきた。

 

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枯れた大地にバーダー達が舞う。

T君「あ、○○」

T君「おっ、××」

 

だんだんテンションが戻っていく。動物に囲まれているって素晴らしい。

 

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セスジムシクイ。小さな身体でネズミのように駆け回る。

T君「満足の行く写真が撮れました!」

最終的には割とテンションが高くなっている。そういうの好きよ。

 

 

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探鳥後のBlue Bearをキメる二人。

昼の探鳥を終え、乾いた喉にBlue Bearをキメて、一応目的地として定めていたOpaltonの町でも覗いてみるか、できれば給油と遅めの昼食も食べようということで、一同はOpaltonの町を目指してみることに。

 

T君「XTRAILのスピードメーターが240km/hまである訳を教えてあげよう…」

J氏「あぁ!あんなところでGrey Falconが脱皮している…」

自分「みんなBlue Bearでトリップ状態になるの止めてください」

   (注:そんな作用はありません、ただの健全なカフェイン飲料です)

 

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Opaltonの町(?)の入り口の看板的なモニュメント的な何か。

そうこうしているうちにパイプとマトリックスオパールの町、Opaltonに到着。見てくださいこの自然に満ち溢れたアットホームな町の景観を。

 

T君「これは、とんでもない所に来てしまった・・・」

J氏「あそこにゼネラルストアみたいな店があったはず」

自分「よそ者が入っていったら撃たれるんじゃないですか?これ」

T君「なんで看板の隣りに便器が飾られてるんだ・・・」

J氏「マドマックスの世界だよね」

自分「トゲトゲの肩パッドしてないと撃たれるんじゃないですか?これ」

 

 

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完全にヒヨった我々は隣町(100km後ろ)までエスケープした。

我々がOpaltonの町に立ち入るにはレベルもMPも足りないと察し、おずおずと100km程離れた隣町まで車を走らせ、日曜日の午後でほぼ全ての店が閉まっている中、辛うじて燃料と昼食を得たのであった。

 

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午後のGrey Falcon。凛々しい。

夕方前に鉄塔前に戻り改めてハイイロハヤブサさんにご挨拶。時折ウロチョロと鉄塔の周りと飛んでいたのでT君達もとりあえず飛翔写真は収めた模様。

現場には1時頃から5時間近く観察をしているというバードウォッチャーのオッサンもいた。嫁さんはとっくに飽きて車持ってどこか行ってしまったと語るオッサン。生粋である。J氏と鳥談義やカメラ談義が止まらず、最終的にはJ氏のビジネスに繋がる話で盛り上がっていた。うーん、こうやってこの人は人脈がモリモリ増えていくのか…

 

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まさかの同じ場所でステルスキャンプ2日目。夕飯は即席麺で軽く済ます。

陽が落ちてきたのでまさかの同じ場所でのステルスキャンプ第2夜。それぞれが今朝テントを畳んだ場所に設営をして、各々がお湯を沸かし、各々が食いたいモノを作って、作っただけ全部食う。そんな夜。この日も寒さはあまり感じられない。

 

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地図で帰路のキャンプ候補地を探るT君。

T君「明日は早朝からぶっ通しで運転してケアンズまで帰るか、もう一泊するか」

J氏「昼までエミュームシクイとか探鳥して道中一泊じゃない?」

自分「すると道中のどの辺で泊まるかが問題になってくるねぇ」

T君「現実的な距離で無料のキャンプ場ってなると限られるんだよなぁ」

J氏「やっぱり初日のCorfieldのあそこか…」

自分「マジかよ勘弁してくれよ、あそこの寒さトラウマなんだけど!!」

T君「でももっとゴールに近づくとなるとキツイよ?」

J氏「それ以上運転しちゃうともう一気に帰りたくなるし」

自分「Corfieldに泊まるくらいなら!僕は!一気に帰るに!一票を!!」

T君「却下します」

自分「アッハイ」

 

 

 

翌日の夜に怯えながら寝袋に入る3日目となった。

 

 

7月20日(月) - 四日目

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もはや日の出の前にこの構図に入ることが日常。

すがすがしい朝であるが、T君のアラームがいつものように0600に鳴ってもなんだかんだで誰も起きてこないまま10分が過ぎた。皆がお互いにお互いのテントを開けるファスナー音を待っている牽制状態だったことから察するに、前日よりも少し冷え込んでいたのであろう。

朝食用のお湯を沸かすこともなく、そそくさとテントを畳んで出発である。昨日と同じ工程。どうしてこうなった。まぁせっかくここまで来てるから日程伸びるのは嬉しいが。

 

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今日のGrey Falconチャレンジ。何故か3羽に減っていた。

そして今朝のハイイロハヤブサの飛翔待ちへ。何故か親鳥と思われる個体が1羽減っていた。これは巣立ちの前兆なのか、よく分からん。

T君はいつものポジションから、J氏は灌木のある低空に降りてきて最高の写真が撮れる一本賭けでブッシュの中に陣取る。結果は高度から昨日とは真逆の方向への飛翔。特にアタリを外したJ氏、猛ダッシュで追随を試みて荒野を爆走するも、

J氏「よく考えたらハヤブサの速さには敵わなかった」

 と、訳分からん位に当たり前のコメントと共に帰投。

 

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荒野の中を駆け回る小鳥達を求めて目を凝らす。

ハイイロハヤブサさん達に別れを告げ、今度はエミュームシクイ探し。

とにかく彼らの声を頼りに、時にはデコイを使い、時には声で寄せ、Spinifexと呼ばれる硬くて超鋭い草を足に刺しまくりながら掻き分けて探していく。

 

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エミュームシクイ。とにかく小さい!そしてすばしっこい!撮れない!

気付けば足元をこいつらに囲まれていた。そこかしこで走り回るちっこくて素早くて可愛い奴。楽しい。

気付けばあっという間に数時間ほど戯れていた。

 

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名残惜しいがこの広い空ともサヨナラの時間だ。

そろそろ帰路に就かないと、暗くなってきてからの田舎道の走行はカンガルーの飛び出し事故祭りになってしまう。名残惜しいがエミュームシクイさん達に別れを告げ、一行は元来た荒野を戻ることに。

 

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途中休憩のWintonにて。モモイロインコも終業モード。

途中で「ソーセージコンテスト入賞」の看板を掲げた肉屋でソーセージを購入しつつ、スーパーマーケットでまたしてもBlue Bearを補充しつつ、ひたすら車は初日に凍えて死にかけたCorfieldのキャンプ地へと向かう。

 

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完全にこの旅のネタ装備と化したBlue Bear。味はちょっと薄いレッドブル

 

そして上空を野生のオカメインコ十数匹が優雅に飛び去る中、気付けばCorfieldの無料キャンプ場に設営が完了していたのである。

 

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再び帰ってきてしまった・・・この地になァ・・・!

 

自分「夜が怖ぇよぉ」

T君「まぁ大丈夫じゃね」

自分「もし朝の3時にT君叩き起こして車のキーを奪ったら察せよ?」

J氏「その時はBlue Bear飲めば感覚無くなるから大丈夫」

 

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買ってきたソーセージを食らう。ポークとアップルサイダーが美味い。

購入したソーセージをパンに挟んで晩飯にしていると、辺りがジワジワと暮れてゆく。初日はこの晩飯のタイミングにおいて3人共々なにかしらの危険を察知し、言葉少なに各自のテントへと避難したのが時刻にして1830辺りだったのである。

しかしどうだろうか、今日のCorfieldは初日に感じた寒さが無いのである。何ならまだ自分もT君もサンダルのままであるし、上着も来ていない。これは・・・

 

J氏「今日は大丈夫じゃない?」

自分「いやまだここから数分で一気に冷えるかもしれない」

T君「まだサンダルだしこれはいけるって」

J氏「明日の朝も陽が出るまでノンビリ寝てられるし、優雅にお茶とか飲んじゃおう」

自分「今何時?6時半になったら勝利宣言するわ」

T君「あーじゃあ後60秒…10…7、6、5、4、3、」

自分「僕の勝ちだッ!!(デスノート風)」

T君「それ負けるからww」

 

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どうにか安眠できそうな夜だった。

 

 

7月21日(火) - 五日目

 

自分「おはようございます。いやー、Corfield良い所ですわ。安眠ですわ」

T君「風も止んだし寒く無かったね」

自分「もうね、10:0で完全勝利なわけ。もう何も怖くない」

J氏「それよりも早くテントから出てきてアレを見てくれ…!」

自分「アレ…?」

 

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コンクリの地面から起床し、SWAGを丸める短パンYシャツのオッサンがそこにはいた。

T君「マシとは言っても真冬のキャンプで半袖短パンにサンダルだよ…」

J氏「本物のSWAGマンだよ…」 

        ※SWAG=オーストラリアの伝統的なキャンプ用寝具

自分「なんでテントも張らずにコンクリの上で転がって寝てたんだ…」

T君「これが本当の内陸のキャンプなんだな…」

J氏「あんなのDNAレベルで人体改造してないと無理。俺達何世代で追いつくの」

自分「俺達が間違ってたんだ…あれが正しいスタイルなんスね…」

T君「きっとSWAGも無しになんて可哀相なアジア人だ、とか思われてたよ」

J氏「SWAGバカにしてたけどあれ見せつけられたらどうしようもない」

 

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試合に勝って勝負に負けた空気のまま我々は帰路に就いた…。

本来はCorfieldの寒さのトラウマを乗り越え、完全勝利の優越感に浸りながら朝の紅茶を楽しみ、あらご機嫌麗しゅう、ダージリンティーを淹れましてよ?的な挨拶を交わす予定だった我々である。

しかし終わってみれば、夜気付かぬ間に忽然と現れ、コンクリの床にSwagを広げ、そのまま寝て起きた半袖のオッサン・オバちゃんに完全に精神的な敗北を喰らっていたのである。

 

 

最終日の最終段階に至って内陸の洗礼を受けた我々は、ここにきて強烈なカルチャーショックという形で旅に最高のオチを付け、その話題を終始引きずりながらワイワイと駄弁りつつケアンズに帰っていったのである。

 

 

めでたしめでたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういうオチであったはずなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは家まであと1時間程度というところで唐突に起きた事件であった。

 

T君「行きに通った道をまた通るのなんか嫌だから沿岸方面走るわ」

J氏「そっち行ってもロスタイム10分もないからね」

自分「・・・ん?なんか今の対向車、パッシングしてなかった?」

T君「道路の凹凸でそう見えただけだと思うけど――― あっ!!」

 

T君「ヒクイドリだ!」

 

 

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一般道に出てきてしまったヒクイドリさん。全く動じない。

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行動的にも見た目からしても若い個体だと思われる。

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この凛々しさと美しさよ。こんなのが野生の鳥でいいんでしょうか。

 

道に飛び出して後続の車と事故を起こされても困るので、30分程周りの車に注意勧告しつつ見守っていたけど、一向に車や人間にビビる気配が無いので、最終的にはジャンパーをバサバサ振って森の奥まで追い立てた。人間は怖いんだぞー、出てきちゃ駄目だぞー。

 

 

 

 

内陸にキャンプ旅に行って、最終的に熱帯雨林に棲息するヒクイドリを見て帰ってくるとかこれもう意味分かんねぇな。