とある獣医の豪州生活Ⅱ

豪州に暮らす獣医師のちょっと非日常を超不定期に綴るブログ

とある獣医の豪州生活Ⅱ

セキセイを 追いし内陸 三千里 ~2日目~

 

2日目の行程、参考マップ。

 7月16日 (2日目)

朝の気温は13℃であった。暖かい。

Georgetownの朝は13℃、余裕の朝を迎えた。前回の旅でCorfieldに怯えていた我々は打ち合わせなしで「ダブル寝袋」という共通の解決策に辿り着いていたものの、この日の朝は想像していたよりも格段と暖かかったため、最終的には2枚の寝袋のうちの1枚を剥いで寝る結果となった。

 

灰の中の残り火で朝の焚火。暖かい。

とはいっても流石に早朝は肌寒い。前日の焚火を掘り起こして新たな木をくべて復活させ、暖を取りながら軽い朝食を頂き、早々にテントを畳む。朝露が降りることもなく乾いたテントの撤収は幸先が良い。

 

Georgetownの朝焼け。

畔を一周してみても良いのだが、特にコレといった鳥の姿も無ければ声もしない。

 

畔も平和である。鳥はまばら。

「今年は雨が多かったからまだ水場に集中してないかなぁ」

「早々に進みますかぁ」

偵察もそこそこに、07:50には現地を出発することに。

 

周りがようやく起床し始めた中で早々に撤収。

キャンプ地点を出発し、車を更に西に向けてまずは給油地点となる近隣の町Croydonへ向かう。道中は普段よりもワラビーの轢死体が多いイメージが強かった。

「なんか轢死体多いなぁ」

「雨降ったからこいつらも増えてて、相対的に事故も多いのでは」

 

地平線に向けてひた走る。

Craydonへの道中。

「あと10kmくらい行ったところで畑があるんだけど、前にそこで大量のオカメインコが集まってたことあるんだよなぁ」

「何かいるといいですけどねぇ」

「もうすぐ見えてくる…おぉあそこだ、何か溜まってるぞ」

「いっぱいいる…モモちゃん達(モモイロインコ)ですなぁ」

「いやいや、奥にクロオウムもいっぱいいるぞ」

 

アカオクロオウム。200羽くらいで群れていた。

まるで東京のカラスが大量のゴミに群がっているかのように、畑にはクロオウムが200羽ほど群れていた。ぺーぺーと騒がしく喚きながら地面に降りてなにやら採食したり枝に止まって羽繕いをしている。普段からクロオウムはよく目にしているが、ここまで集まっている姿は中々に圧巻である。

 

クロオウムに別れを告げて、そのままCroydonの町へ。次の給油地は200km先になるので、ここで満タンまで初の給油。田舎町なのでガソリンの値段は跳ね上がっているが、背に腹は代えられない。

 

Croydonにて初の給油。228c/Lで74.06ドル。

旅に出る前の大雑把な作戦としては、Croydonを経由後はKarumbaまで横断して海に沈む夕日でも見るか?みたいなことを言っていた我々であったが、何しろGeorgetownの出発が想像以上に早かったこともあり随分と早々にCroydonに着いてしまったのである。そこで予定を変更して、「このまま今日の宿泊予定地(仮)であるFour Waysのロードハウスに向かってしまおう」という方針になった。はやくも我々の行き当たりばったりなノリが計画を変更へと導き始めたのだ。

 

轢死体にしゃぶりつくノネコ。豪州の生態系に猛威を振るう外来種

CroydonからNormanton方面へひたすら西進を続けている道中、明らかに様子のおかしい轢死体を避けたところで車を停止しUターンをする。死体は明らかに車に轢かれたワラビーのそれではあったのだが、その隣に見慣れぬ中型の生物が居たからである。確認してみると、それは猛スピードで突っ込んできた我々の車にも怯まずに死体に齧り付くノネコであった。顔面からぶつかったであろうワラビーの砕けた顎部分をゴリゴリと齧っているその眼からは鋭い野生の眼光が光っているのであるが、いやはや流石に本場のノネコはデカい、8kgほどは余裕でありそうなその巨体は全身が筋肉で覆われており、もはや軒下で昼寝をしている所謂『ノラ猫』のそれとはあからさまに逸している別の生物なのである。学術的な価値を感じたので写真を数枚撮っているうちに、ノネコは一瞬でトップスピードになるスプリントを見せつけて2秒後には道脇のブッシュの中に溶け込んで消えた。

 

12:50には第二目標であったロードハウスに着いてしまった。

83号線に合流してT字路を左折、本格的に南下を開始するも道路のコンディションはすこぶるよろしく、これといった休憩を必要としないまま突き進んでしまった結果、「今日の目標地点にしようか」などと言っていたBurke & Wills Roadhouseにも昼過ぎには到着してしまう事態に。とりあえずトイレを借りて、新たに作戦会議である。行き当たりばったりが過ぎる旅なのだ。

 

前回ここに泊まった時はワンコが枝を投げてくれとうるさ可愛かった。

「どうしよう、ここに泊まるか先に進むか」

「まだ時間・体力・燃料全てにおいて全然走れますねぇ」

「ここに泊っても特に何が見れるってわけでもないしなぁ」

「Cloncurryまで走っちゃいますか」

「宿泊場所を見つけないとなぁ」

プランCへと突き進む。

 

ロードハウスから更に南下した道中で第一セキセイを発見。

ロードハウスを後にしてCloncurryへと再び南下を開始して15分経った頃、まずは上空を飛ぶオカメインコを数羽確認。その後、道端で緑色の鳥の一団を発見する。追い求めていたオカメとセキセイの出現に、いよいよ内陸に突入してきた感が強まる。

 

道路脇に車を停めてセキセイを追いかける我々。

どこまでも抜けるような青空とそれを突き刺すように地平線まで続く道路の上を、セキセイインコ達がキュイキュイと嘲笑しながら飛び回り、遠くから順光になるようにそれらを追いかける怪しげな日本人2人がそこにはあった。

 

第一セキセイインコ

セキセイインコ達と戯れつつの休憩を満喫し、そのままCloncurryの町に到着。道中で助手席のJ氏が調べた結果、この町にはここ2週間のレビューで見事に☆1つを数回獲得した「Grumpy old man(怒りっぽいオッサン)」と評されたオッサンの経営するキャラバンパークがあることが判明。低姿勢、低予算、低カロリーの「3低」を旅のモットーにしている我々にしてみればこれはもうおそろしく興味をそそられる内容なので、肝試し感覚でここに宿泊を決定するのに要した考慮時間は2.71828秒にも満たなかった。

 

Wal's Caravan Park。レビューは決して高くない。

果たしてどんなGrumpy old manが出迎えてくれるのかと大いに期待していた我々は失望する結果となる。受付は無人式、入場料を置いて入ってみるとそこはほとんど人のいない静かで開放的なキャンプサイトであり、飲料ではないが至る所に水道が設置してあり、トイレも綺麗でシャワーからはお湯が出るという歓迎っぷりである。

 

ここをキャンプ地とする。

「ここすげぇ良い所ですよね」

「なんでレビューがあんなにボロクソ言ってたのか分からない」

「今にWalが現れてボロクソ言われるんでしょうかね」

「期待できるなぁ」

 

車椅子に乗って愛犬と共にWal登場。宿泊客のオバちゃんと談笑してる。

「お、あの車椅子に乗ってるのがきっとWalですよ!」

「オバちゃんと談笑してるぞ。全然Grumpyじゃない」

「こっちには会釈してオシマイでしたね」

「レビューに騙された。というか数日前の奴らは名にやらかしたんだ」

「ちゃんと『Friendly old pal』とかレビュー書いておいてください」

 

消沈する我々を尻目にモモイロインコ達は羽繕いに精を出す。

想像、というか期待していた癖の強いオッサンとのエンカウントが成らず、煮え切らないまま夕方になり寝床に集まってきたモモイロインコ達の観察をして、いそいそと夕飯を食べる我々。ここでは焚火はできないので、やることといったら食うことと写真の整理くらいしかないのである。

 

夕日が沈んでいく。明かりが無くなったら寝るしかないのだ。

「明日はどうしましょうかね、今日こんなところまで来ちゃってますけど」

「うーん、当初の予定ではWintonだったけど、すぐに着いちゃうよなぁ」

「前回オカメが営巣してたところでも目指します?」

「Bouliaまでもここからなら行けちゃうよなぁ」

「おー、Boulia。行ったことないんですよね。行っちゃいますか!」

「行くかー」

 

 

夜の帳が降りる少し前の約2分間でまたしても予定が狂ってしまい、気づけば我々は当初の目標であった2000kmの旅をなんだかんだで3000kmに伸ばそうとしていたのである。

 

 

 

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