とある獣医の豪州生活Ⅱ

豪州に暮らす獣医師のちょっと非日常を超不定期に綴るブログ

とある獣医の豪州生活Ⅱ

豪州のCOVID-19日記(4月第1週)

前回の記事はこちら:

 

happyguppyaki.hatenablog.com

 

 


4月1日

午後までの総感染者4862人(+305)、死亡21人(+2

今日も引きこもりである。外の状況は不明。近所の誰かが電ノコを使っている音がする。DIYやってるなぁ。

ひたすら暇だ。お菓子でも焼きたい気分だが小麦粉が心許ない。

 

引きこもっていたので大して真新しいニュースも入ってきていない。JobKeeperの給付金申請が37万人を既に超えたらしい。その量の申請を精査するのにオーストラリア政府はどれだけ時間かける気なのだ。

 


4月2日

午後までの総感染者数5137人(+275)、死亡25人(+4

基本的には引きこもり上等体質なのだがツラい。外に出たい。終りの無い缶詰は人から希望を奪う。勉強も続かず、脳死でゲームをしても大して面白くもなく、結果不貞寝をする。駄目である。

昼飯は牛乳1杯。夜をしっかり食べる生活になってきた。動かないってキツいのでダンベルを振り回す。

 

30分程、近所のスーパーに買い物に行った。ニンジンが一人2袋までと書かれている。なんでよ。馬じゃねぇんだから。肉類の品揃えがある程度回復したように見受けられる。買い占めしてる奴らの勢いが落ちたのだろうか。だが小麦、砂糖、パスタは相変わらず完全に品切れである。トレペは知らん、うちにはストックがあるのでみていない。品物をレジに持っていくと「自分で袋詰めしてください」と言われた。ちょっと殺伐としている。みんな疲れてるのね。尚、ほぼ全ての店舗において現金を受け付けなくなっている(現金経由でウイルス媒介があるので)。クレジットカード以外お断り。財布の小銭を全部家の小銭入れにおいてきた。

 

甘いものが無性に食べたくなったが、砂糖もバターも家にはあまり残っていないのでお菓子作りができない。ストレスである。だが同時に、ここでクッキーなんて焼いた日にはなまじ運動していないので体重が凄い事になりそうだ。

明日から3日間は仕事だ。外に出れる。誰かの顔を見て話ができる。とても人間っぽいことだ。ちょっと嬉しい。そうか、この甘いものが食べたいってのはストレスの兆候か。あれだ、英語が喋れなかった12歳当時の状況に似ているのだろうか。

 

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近所のショッピングモールのフードコート。持ち帰りオンリーで全席が撤廃されてる。

 

4月3日

午後までの総感染者数5350人(+213)、死亡28人(+3

今日は仕事。手術の数はすくなかったが外来診察はそこそこコンスタントにこなした。ナースたちが昼飯調達でいつものバーガーショップにテイクアウトを頼もうとしたら開いていなかった。

 

こんな論文が出ていた。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.03.30.015347v1
ネコへの感染は用意なのではという論文、ネコ→ネコ感染も示唆している。どうなるだろうか。


4月4日

午後までの総感染者数5550人(+200人)、死亡30人(+2

この総感染者数ってもしかして週末は伸び悩むんか?月曜になったら報告しよう的なノリの研究所あるん?オーストラリアだとありそうだから困る。いやまぁ基本的にはこういう研究所は週末も働いてるんだけどな。

 

今日の外来は2件ほど「仕事を失ったので高額な治療費は無理」と言われて最善治療ができなかった。お茶を濁す治療になるわけだが、もやもやする。今年は安楽死件数が増えるんだろうなぁ…特に「役所のお仕事」を手伝ってる身なのできつそうだ。

 


4月5日

午後までの総感染者数5687人(+137人)、死亡34人(+4人

新感染者数の伸びが遅くなってきたのはロックダウンの成果なのか、単純に週末に報告数が少なくなるのか。しかし死亡者数は加速してきている気がする。感染者層が元気のある旅行者から国内の高齢者に移行しているんか?ただ、豪州の死者の多くは豪華客船の乗船者から出ているので何とも言えない。

 

日曜日なので仕事は普段通りスローペースであった。そして明日からはまた三連休である。どうしたものか。予定は全くない。

 

豪州のMonash大学が駆虫剤として知られるイベルメクチン(Ivermectin)が、in-vitroにおけるCOVID-19の抑制力を発表した。どうやってウイルスのRNAを抑制・排除しているのか、その要因は全くもって不明とのことだが、多分この流れだと臨床治験にこぎつけるだろう。

イベルメクチンは既に人間のシラミ等の治療に使われているし、オーストラリアは畜産大国である。ヒツジや牛の駆虫剤としてメジャーな薬で、イヌネコであってもフィラリア予防薬として使われるので我々獣医師もお馴染みのアレである。生産ラインはあるはずだ。

が、ぶっちゃけイベルメクチン先生にそんな画期的な期待をしてはいけないと思ってる。だってin-vitroだけの話でしょう…それよりウシ用の駆虫薬を飲んで中毒起こすバカが多発しないか心配である。

 

JobKeeperやJobSeekerの申請に翻弄されている友人達のチャットが飛んでくる。やれ入国日だ、やれ総資産だ、やれパートナーの収入だ、とにかく記入しなくてはならないものが多いらしい。そもそも申請するためのオンラインサイトがよくサーバー落ちしている模様。友人達はまだそこまで切羽詰まった感じではないが、人によっては本当に命がかかった問題であり、みんな必死のようだ。

そんな中、仕事をして給料を貰えることの凄さを地味に実感するのである。
雇われ獣医師、しかも大きな会社の傘下にある病院なので現状の自分は「会社員」みたいな立ち位置なのだが、こういう時は固定給がありがたい。そして圧倒的に普通の「会社員」よりも首を切られ難い仕事でもある。特殊技能資格職ありがとう…。

 

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イベルメクチンでいいならうちの病院にも1リットルくらいあるぞ…

 

4月6日

午後までの総感染者数5795人(+108人)、死亡39人(+5人

月曜日だが総感染者数の数は減少傾向。ラボの報告は週末でもしっかりしているようです。そしてこれはロックダウンの成果と言ってもよろしいのではなかろうか。海外渡航禁止令発令から22日目、Stage-2のロックダウンから丁度14日目である。

ただし死亡者の数は加速しているように見える。大都市における医療キャパシティーが厳しくなってきているのであろうか。

 

今日は物資調達のために買い出しに出た。スーパーマーケットは入場者数の人数制限をかけるために入口に制限を設けていた。普段はWoolworthsに行くのだが今回はColesへ。手に入らなかった砂糖が普通に売っていて感動。買い占めは落ち着いてきたか?
ただし小麦とパスタと米は相変わらず売り切れである。

 

日本、安倍総理が緊急事態宣言を発令する方針を表明。まだ発令しないのね。

しかし諸外国のロックダウンと違い法的な行使力が全然ない模様。オーストラリアを見ている限り、警察がその場で罰金を科せられるような体制でないと民衆はどこまでも身勝手になれる印象があるが、果たして日本の「国民性」はこれをどこまで守れるのか、海外目線と日本目線の両方を持つ身として注視している。

基本、日本には強く「御上が言う事」に流されがちな傾向があるとは思うが、同時にあのワーカホリックな国民性が抑止の邪魔をしそうである…。経済難に対する国の補償が大きくものをいうであろうなぁ。

 

ニューヨークのブロンクス動物園でトラが新型コロナ陽性反応。飼育員からの感染ルートが疑われている。先の論文でも出ていたがやはりネコ科にはある程度の感染力があるのだろうか?各国の獣医師会の動きにも注目したい。ヒト→ネコ感染の報告は散見され始めたが、現状ではネコ→ネコ感染は先に載せたPeer-reviewされる前の論文だけ、ネコ→ヒト感染の報告は無い。人獣共通感染症扱いされるととたんに獣医師への負担が莫大なものになるので、正直勘弁していただきたいところ。

 

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入場制限のための突貫検問が敷かれたスーパー。

 

4月7日

午後までの総感染者数5908人(+113人)、死亡48人(+9人

やはり明らかに感染数が減っている。ロックダウンの成果であろう。しかしここに来て死者の大加速。死亡者は客船や海外から帰国した70代が多い。

 

海外。英首相のジョンソン氏の容体が悪化傾向のため自主隔離からICUに移った。現状ではベンチレーターではなくただの酸素吸入によるサポートの模様。意識も良好。

 

今週末はイースターである。
本来ならば子供達を集め、庭や家中に隠したイースターエッグを我先にと探し回る日であり、家族や親戚友人で集まり、BBQをしてご馳走を囲む日である。しかし政府は耳にタコができるほど繰り返し言い続けている、

「今年はイースターはありません。家にいてください」

そんな自分もこのイースターは内陸のほうに出向いて野生のオカメインコセキセイインコを探す予定だった。家にこもるしかないのである。イースターなんてなかった。なかったんや。なんなら仕事になったわ。仕事万歳。

 

日本、緊急事態宣言を発令
昨日の項に書いたとおりの反応を海外紙は見せている。強制力のないこの発令に国がどう動くか、世界に注視されている。素晴らしい一致団結の国民性を見せつけるか、はたまた嘲笑を買いながら医療崩壊をするかの瀬戸際だ。普段の地震や台風における国民性には世界中から定評があるが、今回は目に見えないウイルスが相手である。

目に見える災害で、小学生の頃から叩き込まれている自然災害精神とはわけが違う。

自分にも予測がつかない。

 

 

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豪州のCOVID-19発症源分布。国外持ち込みが多い。NSW州の国内感染もロックダウンで抑え気味。

 

 

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豪州の総感染者数(折れ線)と新感染者数(棒グラフ)。減少傾向にある。

 

 

来週に続く。