とある獣医の豪州生活Ⅱ

豪州はケアンズに暮らす獣医のちょっと非日常を綴るブログ

とある獣医の豪州生活Ⅱ

Vetpay - 動物医療のためのローン会社

この前の当直で一本の電話がかかってきた。

 

飼「今日の午後5時半に○○病院でオキシトシン注射してもらった妊娠中の猫なんですけど、2時間しても少し出血してるだけで何も起きないんです!○○病院の獣医さんには翌日まで様子見るしかないって言われたんですが!」

僕「(なんで○○病院の終業直前に駆け込んでんだよこの人…)うーん、うちの病院で診てないから様子分からんし何とも言えないけど、膣から若干出血してるだけってのはちょっと怖いよ」

飼「△△病院の当直の獣医さんには帝王切開したほうがいいかも、って言われたんですが…」

僕「(なんで△△病院にも電話してんだこの人…)したほうがいいかもですねー」

飼「そちらの病院で帝王切開ってできますか!?」

僕「できるよー。時間外分含めてお金かかるよー」

飼「・・・実は金銭面が少しキツくてですね、分割払いとかは可能ですか?

僕「あぁ、それじゃあまずVetpayってところに電話してみて、ローン組めるか聞いてみてください」

飼「・・・・・・実はもう連絡してみて断られてしまってて・・・」

僕「あぁー(察し)」

飼「でもでも!絶対に2ヵ月以内に払えますんで!」

僕「ごめんねー、会社の方針で計画支払いは病院と個人の間ではできないんだー、でももし夜中に事態が急変したらいつでも電話してきていいからねー、ごめんねー」

 

その後、電話がかかってくることはなかったのである。

この電話で当直獣医師として色々と察せることがあるわけです。まず飼主さんが最初に駆け込んだ○○病院。評判悪くない病院なんですが、終業間近で経過観察もできないのにオキシトシンの注射をしたという対処から考えて、この時点で既にこの飼主さんは帝王切開の処置を断られていると察します。

次に連絡してた△△病院。ここは緊急病棟なので勿論帝王切開の具申があったでしょうがこちらにも断られているようです。そしてすがる思いでかけてきたのが見知らぬウチの番号、と…。

そして3つの病院に断られたこの人、何故3病院に敬遠されたかと言えばそれはもうお分かりの通り、金銭面での不安です。この話をツイッターで呟いたら一部日本の同業者様から「よく断れたなぁ」と言われましたが、オーストラリアの感覚としては一蹴一択です(マジで命が危険!みたいな場合は一度市に回してから、再度自分に動物愛護の面で市から依頼がきて安楽死、というルートが残ってます)。

 

 

というわけで今日は動物病院と借金と、オーストラリアの獣医療界における救世主ことVetpayについてのお話。

 

 

動物病院を苦しめる一つの大きな要素が「医療費の未払い(借金)」です。これね、本当にビックリするくらい多くて、これに苦しめられていない動物病院は存在しないと思う。

    貴方がお腹が減ったからといって、飲食店は無銭飲食を許しますか?

    貴方が時間が無いからといって、タクシーは無賃乗車を許しますか?

しないんですよ普通は。それが常識であり、それがルールであり、それが人間のもつモラルってもんなんです。しかしこれが医療現場になると違う。命に関わる状況、というものに直面すると、ヒトは非常識になり、自己中心的になり、何ならモラルを盾にして他人につけ入ろうとしてきちゃうのです。

    貴方の動物が病気だからといって、動物病院は無償で治療しますか?

上に挙げた例となんら変わりないのよこれ。でも人は追い詰められて焦っているとこの常識的な事が理解出来ないし、場合によっては「獣医なのに動物が苦しんでいるのを見過ごすのか!鬼畜!」なんて、モラルを盾とし矛としてこちらを攻撃してきたりもします。自分はそいつらに言いたい、「てめぇが代わりに腎臓でも売って苦しめよ、そしたら動物は助けてやるから」と。なんで奴らは皆、自分の金銭的サポート能力の欠如を棚に上げてこちらを攻撃してくるのか。そこまで言うならその怒りを貴方の友人家族に向けて、貴方をよく知ってる人からお金を貸してもらいなさいよと。

 

そりゃ数年通いつめてるラーメン屋なら無銭飲食を「ツケ」として認めてくれる場合もあるでしょう、タクシーの運ちゃんが友達なら後で支払う約束ができるかもしれない。自分だって長年診てきた「お得意様」なら分割払いの特例を設けるし、友人のペットに何か起きたら朝3時であっても個人の携帯に連絡してきて良いぞと言ってあります。が、大抵の顧客はそこまで近しい関係じゃなくてね、あくまでビジネスの相手なんですよ。

中には人情系獣医師さんも勿論いて、こういうケースを請け負ってくれる場合もありますけど、結果的に「やっぱ払えないわ!HAHAHA」なんて言われても残るのは赤字ばかり。そしてそれは何十何百という数になり、赤字が膨らみ仕事として倒れる。僕ぁ夜中の10時に帝王切開して、最終的に何故か僕自身のポケットから赤字分の金が出ていくなんて仕打ちは嫌ですよただでさえ雇われ獣医は薄給なのに…

動物病院は慈善事業を行ってる駆け込み協会じゃねぇんだ、ビジネスなんだ。

 

 

そんな裏の心境を吐き出しまくってますが、いやはや実際、病院を構えてる土地柄にもよりますが金銭面での妥協の相談は毎日数件起きるレベルで存在しているのです。自分はスーパーや飲食店で値下げ交渉してる人を見たことないんですけど、なんで動物病院では日常的に観られるんでしょうか。

 

 

 

で。

 

 

 

動物病院で日常的に起こるローンや分割払いの相談ですが、ここオーストラリアにおいてはとても画期的なシステム、

Vetpayhttps://www.vetpay.com.au/)が存在します。

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https://www.vetpay.com.au/

 

このVetpay、簡単にいえば「獣医療専門のローン会社」というべき金融機関です。突然の高額治療費を飼い主が全額一気に負担できない!でも治療はすぐに始めないとマズい!なんて状況のときに、我々豪州の獣医師が真っ先に助けを求めるのがこのVetpay。

 

 

 ここが凄いぞVetpay!

 Vetpayの何が他の消費者金融と違って画期的かというと、その圧倒的な迅速さと、病院側のリスクの無さなのである。

このローン会社、獣医療専門ってだけあってオーストラリアのほぼ全ての動物病院が直接的な顧客になっていて、それぞれの病院がVetpayのアカウントを持っている。感覚でモノ言ってますが、多分オーストラリアにある動物病院でVetpayのアカウントを持ってないところって存在しないんじゃないですかね。

 

 

病院から飼い主をVetpayに申請する

さて、例えばある日突然交通事故で担ぎ込まれたワンコの治療に2000ドル(20万円)位かかると想定して、Vetpayを使った金銭的やり取りをシミュレーションしてみましょう。

最小限のトリアージを終わらせたら治療費のお話に入ります。こうした事故等の状況において飼い主さん側は金銭面の用意なんぞ出来てない場合が多いですからね。例えば骨折しててこれの治療費に2000ドルかかると告げ、「前金はいくら払えばいいっ!?」と焦ってクレジットカードを出してくる飼い主さんであれば治療費の50%を頂いて即時治療開始、という流れになりますが、「即金は無理!」「お金のことは今はいいだろ!」なんて反応した場合、我々の次のステップはVetpayに電話をする、という流れになります。

 

Vetpayにローン申請をする際にはまず以下の条件を満たします。

  • オーストラリア国民、および永住者であること
  • ペットの飼育者本人であること
  • 18歳以上であること

この前提を満たしたうえで、Vetpayにはネット上で以下の飼い主の情報を渡します。

  • 氏名、生年月日、住所、電話番号
  • 運転免許証やパスポート等、ID情報を最低2つ(病院でコピーを取ります)
  • 職業、会社名、連絡先
  • 収入源の有無とその額、週の支払い(家賃やローン等)の有無とその額
  • 必要としている治療費の概算(2000ドルなら一応で2500ドル申請とかする)

 

動物病院のアカウント上からこの情報を渡すと、Vetpay側は他の金融機関との情報網にアクセスできるのでしょう、上記の個人情報を提供するとその人の経歴や職歴、借金歴等を迅速に洗ってくれるのです。

そしてなんと大抵5分以内にVetpayのほうから飼い主に連絡が行き、融資を受けられるかどうかの合否が伝えられます。この迅速さは緊急医療を必要とする状況において本当に助かるのです。しかも週7日、24時間対応。日曜の朝2時であってもこの対応をしてくれるVetpay様、本当にありがとうございます…!

 

 

結果、Vetpayが融資を受け入れてくれればもう安心です、Vetpay経由で治療費2500ドルまでは病院側は確実に確保できますので、お金のことは気にせず治療に専念できます。これ、本来は当たり前のことなのに中々できないことなんですよね。

 

逆に、Vetpayが融資を断った場合。これは金融機関のブラックリストに載っている人物か収入源が怪しすぎてお金が回収できないであろう人物という判断がなされたことになります。言い換えれば、金貸しのプロから、金を貸してはいけないという警告がなされるわけです。こうなると動物病院という「金貸しの素人」が到底関わってはいけない存在になりますので、安楽死のお話が出てくるか、前金50~75%を払ってくれないと治療開始できないよ、みたいな話に持っていくことになります。

 

飼い主が直接Vetpayに申請する

もう一つの方法として、飼い主が病院を介さず直接Vetpayに融資を頼む方法もあります(Pre-approvalと呼ぶ)。これもまたネット(または電話)で上記した情報を自らが提供し、おおよそ借りたい額を適当に入力して申請を出すのです。飼い主の個人申請の場合だと、合否の連絡に20分程度の時間がかかります(それでもくっそ迅速)。

 

このシステムの便利なところは、場合によっては5分の待ち時間すら必要なくなる面です。飼い主が来院前に「Vetpayで$○○○まで申請通ってます!」と言ってくれれば、病院側も金銭面のお話等すっ飛ばして即治療に入れるんです。また、冒頭のストーリーのような時間外の状況において、呼び出し喰らうだけくらって未払い、みたいなヤツの対策にもなるんですね。

 

そして自分が冒頭の飼い主さんの帝王切開拒否したのは、やはり金貸しのプロが「金回収できねぇ」と判断した相手だからです。彼女曰く2ヵ月で必ず返せるというお話でしたが(っつーか治療費すら言ってないのにすごい口約束する人だったな…)、金貸しのプロ曰くそんな約束は6ヶ月分割でも無理だろ!との判断だったわけ。触らぬ神に祟りなし。プロが断る仕事を素人が受けるわけにはいかんのですよ。

 

治療が済んだら

無事にVetpayから融資の許可が下りて、全ての治療が終わって清算の段階になった場合。まずは概算であった治療費の最終費用を、Vetpayの飼い主アカウントに入力して先方に最終必要融資額を伝えます。

次に、病院側は最終費用のうちの10~20%(1000ドル以下の費用なら10%、それ以上なら20%)を飼い主に支払ってもらいます。これは病院の手元に残る。飼い主に余裕がある場合、ここでもっと多くを支払えばそれだけローンが減ります。

で、残りの80~90%の額を、Vetpayに最終申請するのです。この際、飼い主さんは諸々の誓約書にサインをして、返済開始日等を決めていきます。

 

これだけで終わりなのです。

あとは二日以内に、Vetpay側から動物病院に、若干の手数料(ローン額の3.5%)を引かれた残り80~90%分のお金が振り込まれます。

 

二日ですよ、二日。病院側としては治療費の10~20%さえ飼い主さんが即金で払えれば、あとは全く取り逸れることなくほぼ全額が二日で確保できるんですよ。

あとはVetpayと飼い主側の問題となります。飼い主さんがしっかり2週間毎に分割ローン返済を行えば皆が笑顔で終われますし、返済が滞れば借金回収のおじさんに追われるかもしれませんが、病院側としてはそれはプロにお任せしておけば良いんです。

 

Vetpayはどうやって利益を上げてるの?

まず動物病院側からVetpayにはほとんどお金が流れません。飼い主が申請した最終ローン額の3.5%が経費として持っていかれますが、これって1000ドルの融資で35ドルしか持っていかれないんですよ。素人である動物病院が今後6ヶ月かけて1000ドル分の借金を追いかけるリスクと労力を考慮すれば安すぎる徴収です。

 

融資を受ける飼い主側には勿論それ相応の利子と手数料が発生します。

  • アカウント料として49ドル(12ヶ月以上返済にかからない限り一回きり)
  • 2週毎の返済手数料2.5ドル(28回払いなら2.5×28で合計70ドル)
  • 融資額に対する年利18.4%

とは言っても金利も年利(APR)なので、例えば融資額1000ドルの28回払いであった場合、手数料込みでも2週毎の返済額は43.74ドル。最終的に支払う額は合計1224.70ドルと、そこまでイカれた金利は持っていかれません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正直、24時間対応してくれるVetpayが果たしてこれで利益あげられているのか一端の雇われ獣医には分かりかねますが、もうね、キーワードはこれ。

 

プロはプロに任せろ。

 

 

我々はローンとか気にせず最善の治療を適正価格で提供するだけ。支払いの心配とか借金の取り立てとか、そういうのはソッチのプロに任せて、我々は動物の健康と治療に集中してればいいの。救急やってる病院とか、マジでお世話になってますよVetpay。

 

 

起業を目指す獣医師さん、もしくは金融系の方、こういう事業を日本で立ち上げてみてはどうでしょう。しっかりと日本全国の動物病院を抱き込めばわりかし独占事業になると思うの。「金貸しのノウハウ」と「獣医療界に求められる迅速さ&低リスクさ」の二つが合わされば絶対に需要はあります。