とある獣医の豪州生活Ⅱ

豪州に暮らす獣医師のちょっと非日常を超不定期に綴るブログ

とある獣医の豪州生活Ⅱ

初めての代診医

どうも、今週から一週間有給のワタシデス。やったぜ。

 

自分の動物病院は複数の動物病院を束ねて経営している会社の傘下に属しています。傘下と言っても病院の名前やロゴには一切干渉しない、一般から見れば裏方だけの存在でして、病院の運営方法等にもあまり口出ししない感じの会社なのですが、木曜日午後5時半にいきなりその本部から自分個人の携帯に電話が。

 

AKI「もしもし」

本部「よかった連絡取れた!AKIさん申し訳ないのですが明日一人で病院お任せしていいですか」

AKI「あー、さっきネットで明日の予定確認したら獣医一人だけってメモしてあったので覚悟はしてました、大丈夫ッスよ」

本部「助かります。C病院のほうがバタバタしてまして…」

AKI「でも明日の手術に十字靭帯手術入ってますよ。アレは自分ではなくM先生の担当になりますんで明日M先生来れない旨を飼い主さんに連絡取っておいてください。自分今日は休日なんで」

本部「あーそれなんですけどね、飼主さんが遠方から飛行機乗ってくるらしくてキャンセルできないんですよ」

AKI「ふぁ?」

本部「ということでM先生がそちらの病院に、AKIさんがC病院に応援に行くということになりませんかね…?」

AKI「えぇぇ…(´д`)」

本部「今回だけです!今回だけですのでなんとか駄目でしょうか…?」

AKI「駄目です、っていう選択肢ないですよねそれ」

本部「無いですね」

AKI「認めちゃったよ!」

AKI「M先生は普段から週の半分はC病院で働いてるから慣れてますけど、自分行ったことないッスよ?」

本部「AKIさんならきっと大丈夫ッス!」

AKI「私達会ったことないですよね」

本部「はい…」

AKI「そもそもLocum(代診医)の経験皆無なんですけど」

本部「C病院の看護士さん達はすごく優しくて頼りになるのできっと大丈夫ッス!」

AKI「貴方その看護士さん達にも会ったことないでしょう」

本部「はい…」

AKI「大体ゴタゴタしてるって何起きてるんすか」

本部「いやぁ、C病院の院長が数週間の有給取ってたんですが、代診医が来週水曜からしか取れてなくて」

AKI「それで今日の明日になってようやく『やべっ、金曜獣医いねぇじゃん』となったわけですね」

本部「はい」

AKI「はいじゃないが」

 

AKI「もー分かりました。C病院は自分が明日なんとかしますんで、明日来院予定の○○さんに連絡取って自分が不在になること伝えておいてください。自分が診るということで明日ご予約いただいてますので」

本部「AKIさんじゃないとダメなんですかね」

AKI「その可能性があるから連絡を取れと言ってます」

本部「代わりに院長に診てもらうという方針では?」

AKI「そのアホみたいな案は自分からお断りします。院長は明日定休です。彼女に休日出勤しろと?」

本部「緊急時ですので…」

AKI「緊急化してるのはそちらの不手際かと思いますが。却下です、自分からお断りします。院長は明日既に私用ありますので。とにかく○○さんに連絡取って何とかしてください」

本部「はい…」

AKI「あと早急に明日の自分の予定をメールで送ってください。開始時間と場所。移動費として最低限燃料代は頂きますのでその申請方法もそちらのお好きな形を指定してください。では」

 

 

おい頼むぜ本部(怒)

 

 

休日から面倒な押し問答があった挙句、今日の明日でいきなり代診医させられることになってしまったわけですよ・・・。

C病院はケアンズ近郊にある同じ会社の傘下に属する動物病院なんですけどね、近郊っつったって距離にして80km離れてますもの…。余裕で運転1時間以上、そりゃ交通費請求しますって(むしろすぐに要求しないと絶対忘れられて有耶無耶にされる)

 

で、翌日は朝5時起きとなった。ツライ。

 

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野を越え山を越える通勤

通勤途中。おいこんな朝から峠攻める車、自分の他にいねぇんだけど。

途中で散々出てくる「カンガルー注意」「落石注意」の看板。朝5時からチョロQレースしたくないんですってこっちは。

 

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太平洋だ!やったぜ!

山を越えたらそこはグレートバリアリーフをなぞる一本の道だった。

こうなるともう通勤というよりちょっとした一人旅です。脳内では「1/6の夢旅人」が流れるよね。あーたらーしーい♪

 

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風景飽きた。

しばらく行くと「なんでここで急に」と言わんばかりの町に到着。学校もあれば近代的なショッピングモールもある、普通に町である。さっきまでの海と山はなんだったのか。

 

動物病院に開院30分前到着。うー、知らない病院にお邪魔するこの感覚はよくよく考えれば学生だった頃以来ですなぁ。しかして自分は一端の獣医さん。ましてや今日はこの病院の絶対決定権を任された身。シャキッとしなくては。

 

自分にしてみれば初めてのLocumのお仕事です。Locum(代診医)とは病院内で医者の欠員が出た場合(怪我・病気・有給等)、外部から病院を支えるために送られてきて、本来の医師の代わりに診察や手術を行う存在です。日雇い医、みたいな感じですな。

Locum用の派遣会社みたいなモンも存在していますし、個人で豪州内を放浪しながら行く先々でLocumのお仕事をして食っていく獣医師もいます。短期のお仕事ですので時給は割かし良いのですが、あらゆる状況に即時対応できる知識、体力、勇気が求められる大変なお仕事です。あと地味にLocumとして働くことでも金掛かります。豪州の場合、獣医師は州ごとに登録されるんで、州を跨いでLocumの仕事をする場合はそれぞれの州に獣医師として登録料取られるのよ。

ちなみに需要はめっちゃある。獣医さんみんな休み取りたくても取れない系・・・。

 

とにもかくにも、初体験のLocumですよ。

お邪魔して看護士の方々と軽くご挨拶。良い雰囲気のスタッフに、良い雰囲気の病院です。ただしビビらせてくれるのは、既に今日の日程が診察も手術もフルで埋まってるという面。金曜日だからそこに急患も押し込まれることでしょう。

うう…っ(´;ω;`)

なーんて始まる前はビビッてましたが、始まってみればなんていうことはない。何しろ電話で聞いていたとおり、看護師さん達のスキルが馬鹿みたいに高い。一番最初の患者が眼にMelting ulcerを患っている患畜で、血漿が必要だと一言いえばもう看護師さん2人で採血始めちゃうもの。しかもSaphenous Vein(後脚の静脈、腕や首ほどメジャーじゃない血管)から5mL程サクサクっと採血してるのを見た瞬間、「あ、これ彼女達に任せておけば余裕だわ」と悟ったね。

診察終わって手術の時間になればすでに患畜は手術台の上だし、手術が終わって診察室に戻ってみれば机から床まで磨き上げられているし、最強かよ。

 

 

獣医師は動物看護士さん無しでは生きていけません。

ありがとう、マジで物理的にも精神的にも支えられました。

看護士さんのおかげで無事にLocumできましたとさ。