とある獣医の豪州生活Ⅱ

豪州はケアンズに暮らす獣医のちょっと非日常を綴るブログ

とある獣医の豪州生活Ⅱ

ハイイロハヤブサを求め赤き内地へ

それは唐突過ぎると言っても全くもって過言ではない友人J氏の一言だった。

J氏「今度の連休いつ?内陸攻めるぞ、Opaltonに行こう。T君も行くよ」

 

胸三寸、鶴の一声。大体これで旅の予定は決まってしまうのである。観光業を生業としているJ氏、並びに友人T君共々、残念ながら現在も続くCOVID‐19の影響で鎖国を貫いているオーストラリアにおいてお仕事は中々存在せず、かといってロックダウンも緩和されて鬱憤だけが積もる今、助成金を元手に何かしらの大義名分と共に何所かに行きたい気分でいっぱいなのであろう。よかろうよかろう、それならばワタシとてこの機に乗じて無料ガイドを2人もつけた豪華な国内旅行を満喫してやろうではないか。

 

かくして野郎3人、内陸への放浪旅は発案1週間という超速で実現してしまったのである。社会人が3人寄ればスケジュール調整等も難しい筈なのだが、これが簡単にいってしまうことは悲しむべきか喜ぶべきか。

 

 

目的地

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今回の目的地。人が住んではいけないような内陸。ヤベーところ。

 

最近よく巻き込んでいただいているこの3人旅であるが、J氏T君共にバードウォッチャーなので基本的には鳥を追いかける旅である。今回の目的地はOpalton。昔はオパールの採掘が盛んだったことから町の名前にOpalが含まれている、そんな町。

 

っつーか町とかじゃない。村。

村でもないんじゃないかね。もうね、ただの荒野

 

そんでもって我々は別にオパールに興味は無いんだよ。追いかけるのはGrey falcon、ハイイロハヤブサFalco hypoleucos)です。多分オーストラリアで一番見つけることが難しいハヤブサだとか。鳥のこたぁそこまで詳しくはないが、もうなんか荒野に突撃してキャンプ敢行するのは楽しそうじゃないですか。だから参加するのよ。

 

3泊4日、赤い大地と熱砂と寒波のキャンプ生活です。

 

 

 

7月17日 (金) ‐ 一日目

ケアンズにおいてはこの日はCairns Show Dayと呼ばれるローカルの祭日で仕事が休みだったので、これはしめたとばかりに予定地へ向け早朝から出発です。自分は翌週の月火水が定休なので、有休消費もないままの6連休に入ります。オーストラリアの休日の量は控えめに言っておかしい。

 

0630、T君の運転するXTRAILに乗ってケアンズを出発。

目指す地はおよそ1000km離れた荒野のため、初日はできる限り目的地に近づきつつキャンプが可能と判断されたCorfieldの町。これでも750kmくらいの走行距離になります。オーストラリアはとにかくデカくて広い。

 

 

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T君運転でガンガン荒野を進む。自分は爆睡。

途中で給油を挟みつつひたすら100km/hの速度で砂利道を突き進むT君。少し前に似たような砂利道の対向車が蹴り上げた小石でフロントガラスにヒビが入っているこの車、HPが1しか残っていない状態で何故こんなところに来てしまうのか。

そして後部座席の自分、前日電話当直だったこともあり爆睡。なんかすまん。あれなんだ、大学生の頃に「移動時間は睡眠回収時間」という生活を刷り込まれてしまったから車はひたすら寝る体質になってしまってるんだ…すまん…

 

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どこまでも続くまっすぐな道と地平線。あとカンガルーの轢死体。

道中、恐竜の化石で観光名所となっているヒューエンデン(Hughenden)の町を通過。

通過である。ミュージアムに行くやらアンモナイトを買うやら、そんなことはしない。

我々にベタな観光をする気はないのだ。この集まりにおいて出費とは「最低限の食糧代」「最低限の宿泊代」「最低限の燃料費」「好奇心をくすぐられるネタ」の4つ以外にあり得ないのである。なんとも低姿勢な旅のモットーである。

 

なのでヒューエンデンではスーパーによって最低限の食糧を買うに留まる。この先には食糧はおろか飲料水すら手に入らない荒野が待っているのだ。

 

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好奇心しかくすぐられないモノを売っていた。値段は1/3程。

 

J氏「なんだこれ」

 

T君「Blue Bear(ブルーベア)ってなんスか…」

J氏「みたことのないエナジードリンクだ」

自分「これアレっすよね。完全にレッドブルのパチモンですよね」

J氏「ブルに対抗するとベアなのか…」

 

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ブルーベア。謎の飲料である。表記には何故かロシア語が。

J氏「とりあえず買っておくか」

T君「ですね」

自分「それ必要最低限なんです?」

 

 

無事に必要最低限の買い物を済まし、これまた恒例となっている「訪れた町の肉屋」の査定と肉の購入を経て(肉フックがあるのは評価されるがショーケース等がモダン過ぎてあまり心に刺さらなかった)、目的のキャンプサイトへ。 

 

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野生のエミューの群れ。T君がエミューを呼ぶ踊り(アドリブ)で集めたところ。

道中でエミューの群れが寄ってきた。フェンスの向こうにいるが勝手に放牧地に侵入しているだけの野生である。T君が車を降りて「エミューを呼ぶ踊り」で集めたところ。こいつらは意味不明に好奇心旺盛なのでちょっと不可思議な動きをすると確かめようと寄ってくる。可愛い。

 

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Corfieldの無料キャンプ場に設営。トイレあり、飲み水無し。

日がじわじわと傾きだした頃に、道中のCorfieldに到着。今夜はここの無料キャンプ場に設営して一夜を明かします。それぞれが個人テントを設営。キャンプ場と言っても低姿勢がモットーなのでキャンプファイヤーを囲んでレジャーアクティビティをするみたいなノリじゃありません。テーマは「生きる」です。

 

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人のいない、建物のない地平線に陽が沈む。

陽が沈むまで、キャンプ場の隣りにある、というよりCorfieldに唯一存在理由がハッキリしている酒場を冷やかしに行く。店主のオバちゃん曰く、ここの総人口は5人らしい。それはもはや集落とかそういうレベルのモンじゃないよね…。

 

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初日の晩飯。みんなそれぞれ鍋で作り鍋で食う。

そして陽が傾いてきたとき、一抹の不安要素がよぎる。気温が急激に下がってきたのである。荒野の広がる内陸の、南半球の真冬なので勿論気温が下がることは予測していたわけではあるが、不安である。

各自で早々にメシをかき込み、雑談も早々に1830には各自のテントに潜り込み寝袋に包まれた。

 

 

7月18日(土) - 二日目

寒い!!!

何度も目覚める夜であった。足が寒いのである。つま先からやられるのである。寝袋+靴下を履いて寝ていても。怖い。Corfield怖い。内陸怖い。

どうやら状況は皆同じ様子で、陽も出ぬ朝6時に起床後、大した言葉も交わさず黙ってテントをたたみ早々に車内に退避する3人の姿がそこにはあった。

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予想を上回る寒波に心を折られた3人。

T君「車の外気温度計2℃ってなってますよ…」

J氏「もうBlue Bearをキメるしか無ぇ」

自分「Blue BearキメたらT君がドリフトかまし始めるのでやめてください」

 

まだまだ暗いため道に飛び出すカンガルー達を避けつつ、不穏なドラッグの隠語を出しながら目的地を目指す。

 

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目的の鉄塔に到着。もうハヤブサは飛び立った後であった。

0930、目的の鉄塔付近に到着。ここに例のGrey falconが営巣しているという情報でこんな訳分からん内陸まで来ているのだ。しかしハヤブサたちの姿は既になく、巣だけがチョコンとある状況。どうやら日の出とともに狩りに出かけている模様。

 

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近くのLark Quarry国定公園へ。

鉄塔を見ていても仕方ないので近くの国定公園へ。ここには世界で唯一の「恐竜の群れの足跡」の化石があり、多分そっち系の人には中々興味深いところらしい。実際この内陸の一点に結構な来客があった。しかし低姿勢をモットーとする我々に入場料を払う概念は存在しない。施設の周りを一周歩けるコースがあったので、とりあえず歩いて内陸を味わうことに。

 

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地平線まで続く赤い荒野。これこそ内陸よ。

赤い大地をテクテク歩く。特にこれといった鳥や動物の気配もなく、ただただ静かで美しい大地。草木がしがみつくように生きている。気温は一気に上がってきた。

 

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勿論こいつらもいる。

T君「なんか周回ルート外れてません?」

J氏「え、こっちじゃないの?」

自分「こんな崖登るルートじゃなかったのでは?」

T君「JさんまだBlue Bearキメてなかったですよね?」


 ちょっと道を外れかけたところでBlue Bearの立ち位置は決まった。

 

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鳥を求めて道なき道を行く。

周回ルートの後はその辺のブッシュに突っ込んで探鳥。

こういう環境にオーストラリア原産の内陸系ヘビやトカゲは住んでいる。どこも彼処も水分が切れて息絶えた倒木だらけで、どこを切り取っても良い感じのビバリウムのレイアウトのように美しい。爬虫類には出会えなかったけど。

 

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椅子を展開しGrey Falconを待つ。

鉄塔に戻りノンビリと待っていたら、奴らは突然姿を現した。

 

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遠い。自分のカメラでは限界。

ハイイロハヤブサ。色がハッキリしている個体が2羽と、薄い個体が2羽の合計4羽が戯れていた。ペアとその子供であろうか。絶滅が危惧されるこいつらを見ること自体が相当レアだと言うが、その辺の情報には疎いからよく分からん。とにかく巣立ってもシッカリと生き残ってほしいものである。

 

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肉の神を召喚した2日目の夜。

陽が落ちてきたので設営。ステルスキャンプ。

昨日の夜は寒さにヤラれて散々だったが、この日は暗くなってきても昨日のように「やべぇ寝袋入らないと死ぬ」といった危険な香りはしなかったので、皆で腰を下ろしてヒューエンデンで購入した肉を焼くことに。

おぉ肉の神よ…。

吹き曝しのアウトドアでつつく焼いた肉は何故にこんなに美味しいのか。

 

明日早朝、日の出の前にテントをたたみ鉄塔を目指すことに決め、靴下を3重にはいて寝袋に潜り込む。

 

 

7月19日(日) - 三日目

 

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内地にこぼれる朝の訪れ。

J氏「どうだった?」

T君「快眠でした。暖かかった」

自分「昨日は2:8で負けたけど今日は10:0で勝ちだわ」

 

昨日の寒さは何処へ行ったのか。これは場所が違うからか、覚悟と装備が違うからか、それともただの運なのか。とにかく安眠を得た我々は早々にテントを畳んで例の鉄塔へ。

 

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鉄塔偵察中のJ氏。

例の鉄塔では4羽がそれぞれノンビリと朝日を待っていた。厳しい環境に住んでるなぁ、よく寒くないなぁ。昨日出会ったバードウォッチャー曰く、昨日は朝8時くらいに一斉に飛び立っていったとのことなので、羽ばたきと滑空の写真を押さえたいJ氏・T君と共に、それくらいの時間まで車内で風を凌ぐことに。

 

すると。

 

7時20分、幼鳥の1羽が暇を持て余したか明後日の方向へ飛び立ち、それに触発されて残りの3羽も一斉に鉄塔から彼方の荒野へと飛び立ってしまったではないか。焦るJ氏とT君の健闘も虚しく、写真には収められなかった模様。

 

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仕方ないので他の鳥を探す。T君のテンションは低い。

T君「なんかもう本当に俺は駄目なんスよ…」

J氏「いやいや、大丈夫だって。明日の朝もこの辺にいようか」

自分「明日は交替で運転すれば夜には帰れるから!」

T君「いやぁもう撮れる自信無いです…」

自分「分かった、もう1泊増やそう。そうすりゃ2チャンスあるぞ」

J氏「とりあえずBlue Bearキメとく?」

 

あからさまにテンションが駄々下がりのT君。こうしてキャンプの日程があれよあれよという間に1日増えたのである。

 

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野生のキンカチョウが成る木。

自分「お、なんか鳥の群れが横切ったぞ!」

J氏「キンカチョウだね」

T君「キンカチョウは…まぁ先週撮ったしなぁ…」

 

テンションは上がらない。

 

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鳥たちのテンションは割と高い。

J氏「よしじゃあセスジムシクイを探しに行こう」

T君「それは写真撮りたいです」

自分「行こう行こう」

 

ちょっと持ち直してきた。

 

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枯れた大地にバーダー達が舞う。

T君「あ、○○」

T君「おっ、××」

 

だんだんテンションが戻っていく。動物に囲まれているって素晴らしい。

 

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セスジムシクイ。小さな身体でネズミのように駆け回る。

T君「満足の行く写真が撮れました!」

最終的には割とテンションが高くなっている。そういうの好きよ。

 

 

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探鳥後のBlue Bearをキメる二人。

昼の探鳥を終え、乾いた喉にBlue Bearをキメて、一応目的地として定めていたOpaltonの町でも覗いてみるか、できれば給油と遅めの昼食も食べようということで、一同はOpaltonの町を目指してみることに。

 

T君「XTRAILのスピードメーターが240km/hまである訳を教えてあげよう…」

J氏「あぁ!あんなところでGrey Falconが脱皮している…」

自分「みんなBlue Bearでトリップ状態になるの止めてください」

   (注:そんな作用はありません、ただの健全なカフェイン飲料です)

 

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Opaltonの町(?)の入り口の看板的なモニュメント的な何か。

そうこうしているうちにパイプとマトリックスオパールの町、Opaltonに到着。見てくださいこの自然に満ち溢れたアットホームな町の景観を。

 

T君「これは、とんでもない所に来てしまった・・・」

J氏「あそこにゼネラルストアみたいな店があったはず」

自分「よそ者が入っていったら撃たれるんじゃないですか?これ」

T君「なんで看板の隣りに便器が飾られてるんだ・・・」

J氏「マドマックスの世界だよね」

自分「トゲトゲの肩パッドしてないと撃たれるんじゃないですか?これ」

 

 

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完全にヒヨった我々は隣町(100km後ろ)までエスケープした。

我々がOpaltonの町に立ち入るにはレベルもMPも足りないと察し、おずおずと100km程離れた隣町まで車を走らせ、日曜日の午後でほぼ全ての店が閉まっている中、辛うじて燃料と昼食を得たのであった。

 

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午後のGrey Falcon。凛々しい。

夕方前に鉄塔前に戻り改めてハイイロハヤブサさんにご挨拶。時折ウロチョロと鉄塔の周りと飛んでいたのでT君達もとりあえず飛翔写真は収めた模様。

現場には1時頃から5時間近く観察をしているというバードウォッチャーのオッサンもいた。嫁さんはとっくに飽きて車持ってどこか行ってしまったと語るオッサン。生粋である。J氏と鳥談義やカメラ談義が止まらず、最終的にはJ氏のビジネスに繋がる話で盛り上がっていた。うーん、こうやってこの人は人脈がモリモリ増えていくのか…

 

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まさかの同じ場所でステルスキャンプ2日目。夕飯は即席麺で軽く済ます。

陽が落ちてきたのでまさかの同じ場所でのステルスキャンプ第2夜。それぞれが今朝テントを畳んだ場所に設営をして、各々がお湯を沸かし、各々が食いたいモノを作って、作っただけ全部食う。そんな夜。この日も寒さはあまり感じられない。

 

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地図で帰路のキャンプ候補地を探るT君。

T君「明日は早朝からぶっ通しで運転してケアンズまで帰るか、もう一泊するか」

J氏「昼までエミュームシクイとか探鳥して道中一泊じゃない?」

自分「すると道中のどの辺で泊まるかが問題になってくるねぇ」

T君「現実的な距離で無料のキャンプ場ってなると限られるんだよなぁ」

J氏「やっぱり初日のCorfieldのあそこか…」

自分「マジかよ勘弁してくれよ、あそこの寒さトラウマなんだけど!!」

T君「でももっとゴールに近づくとなるとキツイよ?」

J氏「それ以上運転しちゃうともう一気に帰りたくなるし」

自分「Corfieldに泊まるくらいなら!僕は!一気に帰るに!一票を!!」

T君「却下します」

自分「アッハイ」

 

 

 

翌日の夜に怯えながら寝袋に入る3日目となった。

 

 

7月20日(月) - 四日目

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もはや日の出の前にこの構図に入ることが日常。

すがすがしい朝であるが、T君のアラームがいつものように0600に鳴ってもなんだかんだで誰も起きてこないまま10分が過ぎた。皆がお互いにお互いのテントを開けるファスナー音を待っている牽制状態だったことから察するに、前日よりも少し冷え込んでいたのであろう。

朝食用のお湯を沸かすこともなく、そそくさとテントを畳んで出発である。昨日と同じ工程。どうしてこうなった。まぁせっかくここまで来てるから日程伸びるのは嬉しいが。

 

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今日のGrey Falconチャレンジ。何故か3羽に減っていた。

そして今朝のハイイロハヤブサの飛翔待ちへ。何故か親鳥と思われる個体が1羽減っていた。これは巣立ちの前兆なのか、よく分からん。

T君はいつものポジションから、J氏は灌木のある低空に降りてきて最高の写真が撮れる一本賭けでブッシュの中に陣取る。結果は高度から昨日とは真逆の方向への飛翔。特にアタリを外したJ氏、猛ダッシュで追随を試みて荒野を爆走するも、

J氏「よく考えたらハヤブサの速さには敵わなかった」

 と、訳分からん位に当たり前のコメントと共に帰投。

 

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荒野の中を駆け回る小鳥達を求めて目を凝らす。

ハイイロハヤブサさん達に別れを告げ、今度はエミュームシクイ探し。

とにかく彼らの声を頼りに、時にはデコイを使い、時には声で寄せ、Spinifexと呼ばれる硬くて超鋭い草を足に刺しまくりながら掻き分けて探していく。

 

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エミュームシクイ。とにかく小さい!そしてすばしっこい!撮れない!

気付けば足元をこいつらに囲まれていた。そこかしこで走り回るちっこくて素早くて可愛い奴。楽しい。

気付けばあっという間に数時間ほど戯れていた。

 

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名残惜しいがこの広い空ともサヨナラの時間だ。

そろそろ帰路に就かないと、暗くなってきてからの田舎道の走行はカンガルーの飛び出し事故祭りになってしまう。名残惜しいがエミュームシクイさん達に別れを告げ、一行は元来た荒野を戻ることに。

 

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途中休憩のWintonにて。モモイロインコも終業モード。

途中で「ソーセージコンテスト入賞」の看板を掲げた肉屋でソーセージを購入しつつ、スーパーマーケットでまたしてもBlue Bearを補充しつつ、ひたすら車は初日に凍えて死にかけたCorfieldのキャンプ地へと向かう。

 

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完全にこの旅のネタ装備と化したBlue Bear。味はちょっと薄いレッドブル

 

そして上空を野生のオカメインコ十数匹が優雅に飛び去る中、気付けばCorfieldの無料キャンプ場に設営が完了していたのである。

 

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再び帰ってきてしまった・・・この地になァ・・・!

 

自分「夜が怖ぇよぉ」

T君「まぁ大丈夫じゃね」

自分「もし朝の3時にT君叩き起こして車のキーを奪ったら察せよ?」

J氏「その時はBlue Bear飲めば感覚無くなるから大丈夫」

 

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買ってきたソーセージを食らう。ポークとアップルサイダーが美味い。

購入したソーセージをパンに挟んで晩飯にしていると、辺りがジワジワと暮れてゆく。初日はこの晩飯のタイミングにおいて3人共々なにかしらの危険を察知し、言葉少なに各自のテントへと避難したのが時刻にして1830辺りだったのである。

しかしどうだろうか、今日のCorfieldは初日に感じた寒さが無いのである。何ならまだ自分もT君もサンダルのままであるし、上着も来ていない。これは・・・

 

J氏「今日は大丈夫じゃない?」

自分「いやまだここから数分で一気に冷えるかもしれない」

T君「まだサンダルだしこれはいけるって」

J氏「明日の朝も陽が出るまでノンビリ寝てられるし、優雅にお茶とか飲んじゃおう」

自分「今何時?6時半になったら勝利宣言するわ」

T君「あーじゃあ後60秒…10…7、6、5、4、3、」

自分「僕の勝ちだッ!!(デスノート風)」

T君「それ負けるからww」

 

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どうにか安眠できそうな夜だった。

 

 

7月21日(火) - 五日目

 

自分「おはようございます。いやー、Corfield良い所ですわ。安眠ですわ」

T君「風も止んだし寒く無かったね」

自分「もうね、10:0で完全勝利なわけ。もう何も怖くない」

J氏「それよりも早くテントから出てきてアレを見てくれ…!」

自分「アレ…?」

 

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コンクリの地面から起床し、SWAGを丸める短パンYシャツのオッサンがそこにはいた。

T君「マシとは言っても真冬のキャンプで半袖短パンにサンダルだよ…」

J氏「本物のSWAGマンだよ…」 

        ※SWAG=オーストラリアの伝統的なキャンプ用寝具

自分「なんでテントも張らずにコンクリの上で転がって寝てたんだ…」

T君「これが本当の内陸のキャンプなんだな…」

J氏「あんなのDNAレベルで人体改造してないと無理。俺達何世代で追いつくの」

自分「俺達が間違ってたんだ…あれが正しいスタイルなんスね…」

T君「きっとSWAGも無しになんて可哀相なアジア人だ、とか思われてたよ」

J氏「SWAGバカにしてたけどあれ見せつけられたらどうしようもない」

 

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試合に勝って勝負に負けた空気のまま我々は帰路に就いた…。

本来はCorfieldの寒さのトラウマを乗り越え、完全勝利の優越感に浸りながら朝の紅茶を楽しみ、あらご機嫌麗しゅう、ダージリンティーを淹れましてよ?的な挨拶を交わす予定だった我々である。

しかし終わってみれば、夜気付かぬ間に忽然と現れ、コンクリの床にSwagを広げ、そのまま寝て起きた半袖のオッサン・オバちゃんに完全に精神的な敗北を喰らっていたのである。

 

 

最終日の最終段階に至って内陸の洗礼を受けた我々は、ここにきて強烈なカルチャーショックという形で旅に最高のオチを付け、その話題を終始引きずりながらワイワイと駄弁りつつケアンズに帰っていったのである。

 

 

めでたしめでたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういうオチであったはずなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは家まであと1時間程度というところで唐突に起きた事件であった。

 

T君「行きに通った道をまた通るのなんか嫌だから沿岸方面走るわ」

J氏「そっち行ってもロスタイム10分もないからね」

自分「・・・ん?なんか今の対向車、パッシングしてなかった?」

T君「道路の凹凸でそう見えただけだと思うけど――― あっ!!」

 

T君「ヒクイドリだ!」

 

 

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一般道に出てきてしまったヒクイドリさん。全く動じない。

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行動的にも見た目からしても若い個体だと思われる。

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この凛々しさと美しさよ。こんなのが野生の鳥でいいんでしょうか。

 

道に飛び出して後続の車と事故を起こされても困るので、30分程周りの車に注意勧告しつつ見守っていたけど、一向に車や人間にビビる気配が無いので、最終的にはジャンパーをバサバサ振って森の奥まで追い立てた。人間は怖いんだぞー、出てきちゃ駄目だぞー。

 

 

 

 

内陸にキャンプ旅に行って、最終的に熱帯雨林に棲息するヒクイドリを見て帰ってくるとかこれもう意味分かんねぇな。

 

臨床勤務医の目標・4つのパラメーター

どうも、COVID‐19もすっかり落ち着いてきて徐々に規制も解除されつつあるオーストラリアのワタシデス。いうて州境界の遮断や物流の停滞、観光業における大打撃やこれから更に浮き彫りになってくるであろう経済難と、前途多難ではございますが、まぁ、割かし元気にやっております。

 

さて唐突ですが、数日前に獣医師達の座談会数合わせとして呼ばれまして、まあ飛び込みに近い形での出演となったので無理矢理に搾り出した【臨床勤務獣医師としてのモットー】をちょっと喋らせて頂いたところ、主に同業者の一人から「新卒獣医師等にも広めるべきだ、文字に起こせよコノヤロー」と言われてしまいましたので、果たしてこんなぺーぺーのしがない町医者勤務医風情がそんなおこがましいことをしでかして宜しいものか、そもそもモットーなんてモンは千差万別、十人十色、わざわざこのちょっと特殊な野郎を参考にしてしまって問題無いのですか、新卒を綺麗な純白と例えるなら自分なんて地平線まで赤茶けた大地に転がるアカカンガルー色なんですよ良いんですか、なんぞと悩みつつ、案の定の句点の少なさに書き始めからそのビビり具合も垣間見えてきたところで、恥ずかしながら書かせて頂きたいと思います。

 

 

臨床勤務医としてのモットー

 

自分の掲げる臨床勤務医として「これ守っとけ」と勧めたいのは、以下の4要素をパラメータとして考え、各パラメーターの最大値化を目指すというものです。

  • 患畜のためになる治療をすべし
  • 飼主に合ったできる治療をすべし
  • 獣医師が納得できる治療をすべし
  • 病院のためになる治療をすべし

 

一つ一つの症例に対するアプローチを、この4要素に照らし合わせて考えればまず間違いないと自分は考えています。各項目について細かく分析していきましょう。

 

 

患畜(動物)のためになる治療をすべし

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まずは一番分かりやすいパラメーターですね。獣医師としての原点にして頂点、動物のための医療提供です。これが無くては始まらないくらい大事な数値です。

動物福祉概念クオリティ・オブ・ライフ(QoL)概念が一番分かりやすくパラメーター管理に使える指数だと思います。アニマル・ウェルフェアにおける「5つの自由」は動物福祉の基礎ですが、QoL概念にも大きく当てはまるのでまぁこれをそのままパラメーター管理に使って問題ないくらいに的を得てます。

  1. 飢えと渇きからの自由
  2. 不快からの自由
  3. 痛み、傷害、病気からの自由
  4. 恐怖、抑圧からの自由
  5. 正常な行動を表現する自由

医療を施す際に、これらの自由やQoLを『治療』の結果からどこまで守れるかがそのまま「患畜のためになる治療か」という問いの答えになります。

 

例:

例えば後脚の骨折患畜がいた場合の治療における選択肢と、それによるパラメーターを考えてみます。患畜のサイズ、生活スタイル、年齢等、実際にはパラメーターを左右する要素は沢山ありますが、説明のための例題ですので超端的にして5段階評価で。

  • 何もしない(指数値0)=痛み、傷害、恐怖、不快、正常な行動が抑制される
  • 整形外科手術(指数5)=最も予後が良いであろう最善の選択肢
  • 痛み止めのみ(指数1)=ある程度の痛みの緩和のみ
  • 気功術で治す(指数0)=エビデンスに基づいた医療ではない
  • スプリント固定(指数2~4)=場合により予後は良いが、失敗する可能性アリ
  • 断脚(指数2~4)=不可逆的。予後は個体により差が出やすい
  • 安楽死(指数3)=不可逆的。動物福祉概念において不自由からの解放

と、おおよそ自分ではこう数値を割り振ります。安楽死については後述します。

気功術は極端な例を出しましたがふざけている訳では無くて、あくまでも医学的根拠に基づいた治療を提供することが僕の推奨する4要素パラメーター理論の大原則です。

 

 

 

飼主(クライアント)に合った治療をすべし

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次のパラメーターは飼い主さんです。このパラメーター管理を怠ると臨床医として信頼を得られませんし、ビジネスとしても厳しくなっていきます。

これは飼い主さんの理念、宗教観、家庭環境、経済状況など、非常に繊細かつ大量の項目で動くパラメーターです。よって扱いはおろか、パラメーター値を把握すること自体がとても難しいのですが、そこはとにかくコミュニケーション能力に頼るしかありません。臨床獣医師の仕事は人と喋ることで、動物を見て聴いて触って匂うのは二の次です。

 

例:

例えば2歳のシェパードが今年2月と11月にそれぞれ1回ずつ痙攣発作を起こしたとして、それによるパラメーターを考えてみます。

 

例1「とにかくできる検査は全てやってください!お金は心配ありません!」

 

  • 何もしない(指数値0)=クライアントの求める内容と真逆である
  • 診察のみ(指数値1)=最低限の検査で納得しなさそう
  • 診察、血液検査(指数値3)=ここで異常なかったら多分てんかん
  • 診察、血液検査、MRI他(指数値5)=てんかんの除外診断最終到達点

 

例2「まだ若いのに心配なんです、でも今月厳しくて予算はちょっと…」

  • 何もしない(指数値1)=クライアントの不安を解消していない
  • 診察のみ(指数値2)=最低限の安心はしてくれそう
  • 診察、血液検査(指数値4)=ここで異常なかったら多分てんかん
  • 診察、血液検査、MRI他(指数値3)=経済面の負担が大き過ぎるか

 

例3「病院いくとお金掛かるから嫌、電話で訊きたいだけ。大丈夫ですよね?」

  • 何もしない(指数値5)=お金かかりませーん!(電話ガチャ)
  • 診察のみ(指数値3)=診ない事には分からんよ…
  • 診察、血液検査(指数値1)=お金かかります
  • 診察、血液検査、MRI他(指数値0)=超お金かかります

 

 

・・・と、解りやすく主に経済状況に焦点をおいて、極端なクライアントを3人ほど例に挙げてみました。それぞれのクライアントの価値観の違いで、同じ対応でも指数は動きます。が、ここで大事なことがもう一つ。このパラメーターは我々臨床獣医師がある程度操作できます

 

例えばお金なんて気にしない!!って人に対して

「この年齢でこの頻度で血液検査やレントゲンにも問題が無ければ、およそ99%先天性のてんかんだと思います。残りの1%を考慮してMRIや髄液の検査もできますが、ヒトの発作ガイドラインにおいてはこの頻度ではまだ治療薬も使わないレベルなので様子見も選択肢の一つです」と持っていくことで

「ぼったくらない正直な獣医さんだ!(指数5)」

という展開に持っていけるかもしれません。

 

逆にお金掛けたくない!!って人に対して

「肝機能に生まれつきの障害があった場合命に関わりかねません。重症になってからでは大変ですよ。早期の確認は後々の医療費の負担を減らせると思います!」

「確かにそういう考え方もあるな!(指数4)」

という展開に持っていけるかもしれません。

 

では何故このパラメーターを獣医師が操作すべきなのか

それは次の項目に繋がるのです。

 

 

 

獣医師が納得できる治療をすべし

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3番目のパラメーターは獣医師当人です。このパラメーター管理を怠ると精神を病みますし、理念に則った仕事ができないので軸はブレるわ適当になるわでヒトとして終わります。本当に大事にして頂きたい。

これは獣医師本人の理念、信じるもの、熱意、やり甲斐、妥協点などがパラメーターに反映されます。そして、これは完全に自論になってしまいますが、こうした獣医師の根本となる理念はおよそ20%が学生の頃、70%くらいが働き始めて最初の2年程の影響で形成されると思ってます。この時期に学んだ「獣医師像」は後々まで引きずる傾向にあると思うんだ。

 

例:

飼い主パラメーターの時に使った、痙攣発作の例を使って獣医師側のパラメーターを考えてみます。

  • 何もしない(指数値0)=獣医師としての仕事を全うしていない
  • 診察のみ(指数値3)=最低限の診察。まぁ再発するまで大丈夫かな
  • 診察、血液検査(指数値4)=一次診療としてシッカリしてる
  • 診察、血液検査、MRI他(指数値5)=ゴールドスタンダード!

 

と、これくらいの指数の上下になると思います。本的に獣医師としての理念は「根拠に基づいた医療」が主軸になっているべきなので、検査量が増えたり確定診断を目指したりより予後が良くなる最善治療を施せば施すほど、このパラメーターは上がります。

また、個人別により熱意を持ってぶつかりたい分野なども存在しますので、そういった方向にベクトルが向くことでパラメーター値が上がることもあるでしょう(例:画像診断大好きだから是非MRI撮りたい、整形外科が得意だから手術歓迎、等)

 

 よって、獣医師パラメーターと飼い主パラメーターのバランスを取ることは非常に重要になってきます。クライアントの意向にひたすら合わせて獣医師が納得できない治療をすることは間違っていますし、逆にクライアントのことを考えず獣医師がやりたい治療をゴリ押してもいけません。

場合によっては飼い主のパラメーターを正しい方向に操作し、場合によっては獣医師もある程度の妥協をしなければならないわけです。

 

 

・・・ちなみにネガティブな要素もこのパラメーターに含まれることがあります。例えば金儲け至高主義の獣医師は一定数存在しますが、彼らの場合は「お金になるか(熱意、やり甲斐)」でこの獣医師パラメーターが上下します。そこは否定しません。お金は大事だもの。ただし飼い主パラメーターを無視して金儲けをゴリ押すヤツは見下すし、更にはエビデンスのかけらもない似非医学で動物の健康にまで被害を及ぼすクズ、てめーは駄目だ。

 

 

 

病院のためになる治療をすべし

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 最後のパラメーターは病院のためになるか、言い方を変えるならビジネスのためになるか、です。読んで字の如くで、深く考える必要のないパラメーターですが、この4つ目のパラメーターを常に意識することは一定のお給料を頂いている「勤務医」にとってとても大事なこと。多分だけど院長先生もこれ意識しないと暴走するから大事だと思う。

パラメーター自体はとても簡単に出来ています。その治療はビジネスとして勤めている病院に利益をもたらすかどうかです。 お金が入ってくるなら指数は上がり、お金が出ていくなら指数は駄々下がりします。分かり易い。第1の動物パラメーターくらい分かり易い。

 

例:

通りすがりの人が予防接種歴不明、病歴不明、交通事故に遭った野良猫を連れて来院

  • 無料で治療(指数値0)=ビジネスとして赤字である
  • 通りすがりの人に全額請求(指数値5)=ビジネスとして黒字である
  • 通りすがりの人に割引請求(指数値2~4)=割引率次第で利益も不利益もない
  • 安楽死(指数値3)=短時間で終わらせられる面でもほぼプラマイゼロ

 

色々と思うところはあると思いますが、その「思うところ」は獣医師パラメーターと飼い主パラメーターに割り振ってください。第4パラメーターはひたすらに利益か不利益かだけ。割り切ろう。病院の評判・口コミとかいう要素も差しあたって分かり易くするために無視して良いです。そこに関しては院長の方針の問題なので、そこに合わせましょう。

 

 

 

 

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勤務医モットーにおける安楽死

単体として特筆すべき部分でしょう。自分が掲げる勤務医モットーにおける安楽死という選択肢の立ち位置です。キツい事言いますが、獣医療において安楽死という選択肢を端から無いものにしては絶対にいけません。

 

まずこのモットーの4項目において、第1項目と第4項目の考え方が実にシンプルであることは分かって頂けると思います。動物のためになる治療パラメーターと、病院のためになるパラメーターです。安楽死という選択肢はいついかなる状況においても、この2つのパラメーターの指数を真ん中に持っていくことができます。

  • 動物のための医療:安楽死は不可逆的な不自由やQoL低下からの解放(指数3)
  • 病院のための医療:安楽死は短時間低コストで不利益を最低限に抑える(指数3)

 

この2つは、いうなれば物理的なパラメータです。目の前に苦痛や不安を伴う動物が物理的にいて、ビジネスや金銭という物理的な枷があるわけですね。「ものは考えよう」―――物事は考え方次第で、よくも悪くも受け取れると言いますが、物理的パラメーターはどう考えても良くなったり悪くなったりしないんですよね。どう頭を捻って考えたところで動物の苦痛は和らぐことはないし、赤字はどう考えても赤字なんです(院長でもない限り)。この二つの項目をどんな状況でも安定して指数3にまで持っていける選択肢の存在って凄いんです。

 

あとは残りの2項目をどうすり合わせるかだけに集中できるわけですが、この2つは物理的な障壁ではなく精神的なものです(精神的パラメーター)。物理障壁は時に絶対不変な状況に陥ってしまいますが、精神的な障壁は動かせます。難しいけどね…。

 

 

簡単にまとめるなら、パラメーターには優先順位があります。

動物 ≧ 病院 > 飼主 = 獣医

物理的なパラメーターのほうが優先度は高くなります。飼主指数と獣医指数はものの考えようでなんとかなるので。これ、後々大事になってくるので覚えておこう。

 

 

言いたい事はあまり伝わっていないだろうけど、シェルターメディシンとか経験したら分かり易くなると思います。

 

 

 

応用例題

 4項目を応用して、勤務医の治療として「やってはいけないこと」がどのようなパラメーター配分になるのか、例題を使ってみていきます。基本的にこのパラメーターの考え方を使う際にはまず、突出して極端に低いパラメーターが存在する治療法は別の案を模索すべき、がキーワードになります。

 

例1:夜間対応で初診の胃拡張捻転の8歳ド―ベルマンが来院。直に手術をしなければ助かる見込みはない。手術を適切に行っても死亡率は10%程。夜間対応の面もあり、手術料は30万円。

飼主「払えます、直に手術をして助けてあげてください」→手術を行う

  • 動物指数☆☆☆☆☆ 苦痛を治せるかもしれない最善手である
  • 飼主指数☆☆☆☆☆ 希望通りの対応である
  • 獣医指数☆☆☆☆☆ (翌日睡眠不足不可避を除き)本懐の対応
  • 病院指数☆☆☆☆☆ 正規の時間外費用を請求できる、黒字

 

飼主「半分だけ払えます、残りは1ヶ月以内に必ず払います」→手術を行う

  • 動物指数☆☆☆☆☆ 苦痛を治せるかもしれない最善手である
  • 飼主指数☆☆☆☆☆ 希望通りの対応である
  • 獣医指数☆☆☆☆☆ (翌日睡眠不足不可避を除き)本懐の対応
  • 病院指数☆☆    未回収の可能性があり、赤字の危険が伴う

 

飼主「30万円は無理です…でも助けて…」→手術を行う

  • 動物指数☆☆☆☆☆ 苦痛を治せるかもしれない最善手である
  • 飼主指数☆☆☆☆☆ 希望通りの対応である
  • 獣医指数☆☆☆☆☆ (翌日睡眠不足不可避を除き)本懐の対応
  • 病院指数      全額未回収のリスク、借金回収への人件費が赤字

 

飼主「30万円は無理です…安楽死は嫌です、連れて帰ります…」→対応の放棄

  • 動物指数      確定的な死が待ち、苦痛を長引かせるだけの最悪手
  • 飼主指数☆☆☆   金銭面での利。安楽死否定の気持ちは優先される   
  • 獣医指数      全くの無力、何もしていない、存在意義とは
  • 病院指数☆☆☆☆☆ 赤字のリスクが無い。診察料は取る。

 

飼主「30万円は無理です…安楽死は嫌です、連れて帰ります…」→安楽死へ説得

  • 動物指数☆☆☆   苦痛からの速やかな解放
  • 飼主指数☆☆    金銭面での利。安楽死否定の気持ちは優先されない   
  • 獣医指数☆☆☆   手術をしたとしても死亡率があり、妥当な対応の一つ
  • 病院指数☆☆☆☆☆ 正規の安楽死費用が請求できる、黒字。

 

解:絶対に選んではいけない選択肢が2つあります。治療費未回収のまま手術に突入のパターン(病院指数ゼロ)と、手術せずに飼主がイヌを連れ帰るパターン(動物指数ゼロ)です。

このうち、飼主が連れ帰るパターンの獣医指数は振れ幅があると思われ、獣医師によっては「涙を流す飼主の前で安楽死を強行しなくて済む」ことに肯定的な気持ちを持つ人ももしかしたらいるかもしれません。

しかし優先されるべきは飼主の気持ちではなく物理的に苦しんでいる動物指数です。飼主の気持ちは説得で動かせますが、動物の苦痛は手術か安楽死の二択以外にはどうしようもなく、この2つ以外を選んだ時点で獣医師としての仕事を放棄しています。安楽死の説得案は妥協案ですが、動物の苦痛を代弁し、飼主に対応が必要であるということをできるだけ納得してもらい、飼主指数を上げるのが獣医師としての主な仕事になります。

ちなみに「手術費未回収で手術」は危険。今回は初診ということにしてあるので飼主と病院の間に信頼関係はありませんし、術中死の可能性もあるので術後に動物を人質に取ることもできなくなる可能性アリ。半額回収で手術に関してもそのまま蒸発されることがよくあるのは臨床現場で働いていれば痛いほど知ってるでしょう。

 

 

 

 例2:「吠えるし家具を傷める」という理由で健康な生後6ヶ月の仔犬の安楽死を希望してきたクライアント

安楽死に応じるという選択肢:

  • 動物指数☆☆☆   安楽死なので指数3、QoLの保証はあるが最善ではない
  • 飼主指数☆☆☆☆☆ 希望通りの対応である
  • 獣医指数      若く健康な個体の安楽死に対する理念・信念の葛藤
  • 病院指数☆☆☆☆☆ 正規の安楽死費用を請求できる、黒字

 

しつけの方法を教育し、飼主がそれに肯定的な場合:

  • 動物指数☆☆☆☆☆ 安楽死の回避、飼主との信頼関係獲得を目指せる
  • 飼主指数☆☆☆☆  時間はかかるが問題点の克服を目指せる
  • 獣医指数☆☆☆☆☆ 知識の伝授による動物と人の救済は本懐である
  • 病院指数☆☆☆☆☆ 正規の診察料を請求。黒字

 

しつけの方法を教育し、飼主がそれに否定的な場合:

  • 動物指数☆☆☆☆☆ 安楽死の回避、飼主との信頼関係獲得を目指せる
  • 飼主指数      問題行動を早急に無くす目的を全く果たせない
  • 獣医指数☆☆☆☆☆ 知識の伝授による動物と人の救済は本懐である
  • 病院指数☆☆☆☆☆ 正規の診察料を請求。黒字

 

里親探しのためにシェルターに譲渡する案に飼主が応じた場合:

  • 動物指数☆☆☆☆☆ 安楽死の回避
  • 飼主指数☆☆☆☆☆ イヌを手放すという目的は達せられる
  • 獣医指数☆☆☆☆☆ 若く健康なイヌの命を救える
  • 病院指数☆☆☆   利益も不利益もない

 

シェルターが満員で受け入れられないが、里親が見つかるまでは現飼主がそれまで世話をするように説得:

  • 動物指数☆☆☆☆  安楽死の回避、低下したQoL(絆の喪失)の延長
  • 飼主指数☆☆    妥協案。最終的に手放すという目的は達せられる
  • 獣医指数☆☆☆☆  若く健康なイヌの命を救えるが遺棄や虐待の危険性あり
  • 病院指数☆☆☆   利益も不利益もない

 

里親を探すこと2週間、仔犬は人の手や男性の声に怯えるようになってきた。体重も少し減っている。飼主が再度安楽死を打診してきてこれに応じる:

  • 動物指数☆☆☆   虐待による動物福祉やQoLの低下からの不可逆的解放
  • 飼主指数☆☆☆☆☆ 希望通りの対応である
  • 獣医指数☆☆    妥協案。虐待阻止の使命、安楽死に対する葛藤
  • 病院指数☆☆☆☆☆ 正規の安楽死費用を請求できる、黒字

 

里親を探すこと2週間、仔犬は人の手や男性の声に怯えるようになってきた。体重も少し減っている。飼主が再度安楽死を打診してきてこれを断る:

  • 動物指数      虐待の継続により動物福祉に多大な懸念が生じる
  • 飼主指数☆     手放すという目的がまだまだ達せられない
  • 獣医指数☆☆    死の回避で指数は増えるが、動物福祉懸念で減る
  • 病院指数☆☆☆   利益も不利益もない

 

 

解:初診における安楽死は獣医師が到底納得できない選択肢であり再考すべきである。ただし獣医師によっては若い個体の安楽死に抵抗がないかもしれず、その場合は獣医師指数3程度は維持できるだろう。

しつけによる矯正が成功することが「動物、飼主、獣医師、病院」の全てにおいて最も望ましいが、飼主の気持ちをこれに動かすコミュニケーション技術が要求される。

しつけ案が通らないと判断した場合は、飼主指数がゼロの案であるためこれを破棄して里親探しを優先する。もし里親探しの間も飼主と暮らす必要があり、その最中に虐待や飼育遺棄の可能性を見出した場合、自分であれば動物保護の理念から安楽死に対する獣医指数が上がる。場合によってはやむなしとなってくる。

 

 

例3:貴方は環境保護に興味を持つ獣医師でありノネコ問題の対応にも熱意を持って取り組んでいる。ある日、新しい保護猫ボランティアグループから「避妊手術を3000円でやってください」と頼まれた。

安い値段で大量のノネコを里親に出し、少しでも生態系を助けたい!要望に応える:

  • 動物指数☆☆☆☆☆ ネコに不利益は無く、環境問題には助けになる
  • 飼主指数☆☆☆☆☆ ボランティア指数、安くネコが助けられる
  • 獣医指数☆☆☆☆☆ ノネコ問題の対応に熱意がある
  • 病院指数      人件費、麻酔費、光熱費、薬剤費、とても賄えず赤字

 

僕の仕事が終わった後、麻酔師のアシスト無し、ガス麻酔無しで滅菌してない器具使って糞安い縫合糸使えばギリギリ3000円に収まるから、仕事の後に応じるよ:

  • 動物指数      正しい環境での手術ではなく術中・術後の危険が伴う
  • 飼主指数☆☆☆☆☆ ボランティア指数、安くネコが助けられる
  • 獣医指数☆☆☆☆☆ ノネコ問題の対応に熱意がある
  • 病院指数☆☆☆   薬剤費と消耗品だけなので赤字にも黒字にもならない

 

人件費を含めた最低限の値段は取らないと…避妊術定価の6割引きで答える:

  • 動物指数☆☆☆☆☆ ネコに不利益は無く、環境問題には助けになる
  • 飼主指数☆☆☆   ボランティア指数、少し値は上がったが正規より安い
  • 獣医指数☆☆☆☆☆ ノネコ問題の対応に熱意がある
  • 病院指数☆☆☆   赤字にも黒字にもならない最低限は取っている

 

避妊術定価の6割引きで答えるけど、これに対応するとAさんのワンちゃんの手術まで手が回らなくなりそうだ:

  • 動物指数☆☆☆☆☆ ネコに不利益は無く、環境問題には助けになる
  • 飼主指数☆☆☆   ボランティア指数、少し値は上がったが正規より安い
  • 獣医指数☆☆☆☆☆ ノネコ問題の対応に熱意がある
  • 病院指数☆     正規の仕事が受けられなくなると相対的に赤字

 

Aさんの手前、割引はいかんでしょう。正規の値段で受けますよ:

  • 動物指数☆☆☆☆☆ ネコに不利益は無く、環境問題には助けになる
  • 飼主指数☆     ボランティア指数、正規の値段はキツい
  • 獣医指数☆☆☆☆☆ ノネコ問題の対応に熱意がある
  • 病院指数☆☆☆☆☆ 黒字になる

 

 

解:ボランティア等の対応をしている病院でよく起こるケース。基本的に人件費も賄えないような低額で受けてはいけません(病院指数ゼロ)。

また、赤字が出ないけど黒字も無い程度まで抑えた場合、こういうボランティア活動を行っている間に正規の仕事が入れられない状況になってしまうと結果的には黒字の仕事を取り逃したという意味で相対的に赤字になります。うちの病院の場合では「ボランティアの仕事は優先度最低」で日々の手術をしており、まず飼主がいて正規の値段を払っている手術を行い、もし手術の時間が余っていたらボランティアの仕事にかかります。飛び込みの手術で予約を入れていたボランティアネコの手術がいきなり延期になってしまっても、ボランティアに文句は言わせません。そういう約束になっているのです。

シェルターメディシンにおいては単価を下げるために薬品や消耗品を安いものにして対応することがあります。これに関してはメリットとデメリットが共存するためある程度であれば許容範囲だと自分は考えますが、行き過ぎるとメリットで上がる動物指数よりもデメリットで下がる動物指数のほうが大きくなります。

 

上記の問題を全て解決するのが「ボランティアの仕事を正規の値段で受ける」です。優先度も下がらないし、病院側も黒字になる(正直それでもノネコや野良猫はどんな病気や寄生虫持ってるか分からんので、病院に入れること自体がぶっちゃけ正規の飼い猫よりデメリットではありますが)。

 

 

 

まとめ

雇われの臨床獣医師というのは特殊な立ち位置です。動物を助け、飼主を助け、病院の収益を助け、それでいて自分自身の管理もしなければなりません。

世界は優しくないので全てが丸く収まることはそうそうなく、一部が犠牲にならざるを得ない状況ってのが出てきます。そういうときに、一つの犠牲を大きくするよりも、バランスを考えるという意味でこのパラメーター理論は自分の治療方針の思考において大きく役立っております。

ここまで頑張って書いてはみたものの非常に解りにくいし、飼主指数と獣医指数に関しては定義もメチャクチャ曖昧なので特に新卒獣医師には訳分からんとは思いますが、もし選択に迷ったとき、とりあえず4つのパラメーターがあるんだっけか程度にでも思い出していただき、少しでも助けになれば幸いですね。

 

 

 

 

 

 

 

おまけ:隠しパラメーター「社会指数」

例4:狂犬病ワクチンは副反応のリスクがあるから怖い!打ちたくありません!

 

解:法律で接種が義務付けられておりパラメーターによる思考をする必要がありません。基本的に例外無く「打つ一択」であり、対象動物の体調がすぐれない等の理由で打たない場合もそれは「延期」であり「免除」ではありません、つまり最終的には打つことが前提とされています。

 

ちなみにこれ、パラメーター理論でもしっかりと説明つくようになってます。便利ですね。何故なら巧妙な罠が張ってあります。随分と上の方になってしまいましたが、4つのパラメーターをまとめた画像に英語でこう書いてあるんですよ。

 

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はいここ赤線。ぶっちゃけこの一文字が大事なのってこの最後の例題くらいで、ブログを書く際に面倒だったのと分かりにくくなるので今まで「病院のためになる治療」「病院指数」としてきていました。でも自分のパラメーター理論の原文には「Community(社会)」という一文が実は加わってるのよね。細かい事言うと獣医指数に関しては「Employee(従業員)」なので、職場にいる看護師さん等の心境を無視した独裁案もご法度なんですが。

閑話休題、話を戻す。

病院指数ですが、これは場合によっては「社会指数」に置き換えられます。社会のためになるか、という指数になるんです。すると、狂犬病ワクチンのパラメーターはこう変化します。

 

 

副反応が怖いっていうから打たないよ:

  • 動物指数☆☆☆☆  副反応リスクが消え、狂犬病リスクが増す
  • 飼主指数☆☆☆☆☆ 希望が通る
  • 獣医指数☆☆☆   心境次第
  • 社会指数      法律違反、社会を狂犬病リスクに晒す

 

法律で決まってますので打ちます:

  • 動物指数☆☆☆☆  狂犬病リスクが消え、副反応リスクが若干ある
  • 飼主指数      説得次第で指数を上げられる
  • 獣医指数☆☆☆☆  正しい仕事を行っている。副反応怖ぇー
  • 社会指数☆☆☆☆☆ 法律順守、社会を狂犬病リスクから守る

 

選択肢はこの2つに限られます。困りました、「パラメーター値がゼロになってる選択肢は避けよ」がここでは有効に働きません。

しかしね、飼主指数ってのは説得や教育で動かせるんです。

病院指数の場所にあるこの社会指数は物理的パラメーター。ものの考え方だけでは動かせません。法律を守っているか、法律を遵守しているか。表か裏かです。

そうなるとパラメーター内の優先順位があります。物理的パラメーターは精神的パラメーターより優先されます。結果、飼主指数ゼロの案よりも、社会指数ゼロの案のほうがより問題視されるんです。

 

 

そこそこよくできてると思うんだ、パラメーター理論。

 

豪州のコロナ追跡アプリ COVIDSafe

3月18日に全海外渡航禁止令を発令、

3月22日にNon-essntial Serviceの営業停止措置でしたので、

オーストラリアでロックダウンが始まってから6週間目になります。

 

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1日毎の新感染者数。現在は1日20人に満たない。

 

えー、結果から言うとですね、オーストラリアの底力を舐めてました。もの凄い大成功です。完全にロックダウンの理想形ロックダウン決定後に感染者拡大のピークが訪れ、そこから2週間でピークを脱し沈静化、その後も感染拡大ペースは下がり続け、ここ最近では1日の新感染者数が20人に満たない日が続いてます。その限られた感染者のほとんどが、ヨーロッパを始めとする海外から救助便で帰ってきた帰国者であり、ホテルや孤島での軟禁中での陽性反応です。

 

正直最初は疑心暗鬼だったんですよ。あのやんちゃなオージーがね、家にいろと言われて家にいられるのかって。そりゃね、分かってる連中は従いますけどね、バカはどこまでもバカだろうと。こっちの高校を出てる身として、奴らの精神年齢が男子高校生で止まってるの知ってるからこそ、思ってたんですよ。

実際ロックダウンが始まって1週間くらいはビーチに人が溢れてたりパーティー開催してたりで散々問題行動はニュースになってましたけど、あれですね、やはり執行力って大事だったのかもしれないですね。バカでも「警察に捕まってその場で罰金5000豪ドル(34万円)」をやられたらね、黙るんです。

あとはまぁ、フェアだからですか。この国の国民性って「愉快で適当でバカ」だと思ってるんですけど、同時にフェアな部分も国民性だと思うんですよ。世界的なスポーツの大会観ててもオーストラリア代表って汚い事やらないのよね。そんな感じ。みんながフェアに給付金貰って、みんなフェアに家で煮詰まっていることに文句が出なかった。出る杭は打たれるからとかじゃなくて、ここはチームプレイなんだ、って気合が国全体に出てるように感じます。アメリカ国民のロックダウン反対デモとか見てると特にそう感じる。あれはまぁ教育の問題かもしれんが…。

 

 

で。

 

 

来週からロックダウンの規制が試験的に緩和されるんです。Non-essential serviceの営業は再開されるし、生活圏から50km以内への移動、国立公園の入園許可、キャンプやレジャーの規制解除などなど。ロックダウンに大成功しているニュージーランドとの鎖国解除も検討しているらしい。

あくまで試験的なもので、もしも感染者数がまた増える傾向にあると判断されたら再度ロックダウンされるらしいですけどね。それでいい。

 

 

それに伴い、オーストラリア政府は新たなシステムを数日前に発表したのでご紹介。

 

 

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スマホ用アプリのCOVIDSafe。コロナ監視アプリである。

 

COVIDSafeというスマホ用アプリです。

  1. このアプリを各自の携帯にダウンロードすると、その携帯所有者の電話番号と暗号化されたアプリのIDがリンクされます。そしてこの情報が保険医療当局へと送られます。
  2. アプリは常時、Bluetoothを使って周囲の携帯にインストールされている同じアプリを探します。もしもこの携帯同士が1.5m圏内に15分以上近づいていた場合、アプリ内に暗号化された相手のアプリ情報(あくまでもアプリの情報であって携帯所有者の個人情報ではない)が登録され、21日間保管されます。21日後にその情報は自動的に消去処分されます。
  3. 陽性が出てしまった人がもしもこのアプリを携帯にインストールしていた場合、任意で「情報を地区保健医療当局に送信する」ことを選択できます。送信される内容は暗号化された蓄積アプリ情報、つまり21日間の間にこの陽性者の携帯に15分以上1.5m近づいた人のアプリが持つID情報です。
  4. 保険医療当局は送られてきた暗号化ID情報を元にこのIDのアプリ保有者(つまり濃厚接触者)へと警告メッセージを送ることが可能というシステムです。警告を貰った場合はコロナ検査が推奨されます。

 

解りにくいのでいらすとやにすると…

 

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アプリをインストールする。この時に連絡番号と仮名を暗号IDに紐づけて当局に送信。

まずアプリインストール時に、連絡用電話番号と氏名(わざわざ仮名で良い、とまで書いてあります)、年齢層(16~29、30~45等)、住んでる地域番号を訊かれます。これを答えることで、そのアプリ所有者の大まかな年齢、生活地域、そして連絡先が保険医療当局に登録されます。

 

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アプリ同士が1.5mに15分以上存在するとBluetoothでID情報が互いに登録される

そのアプリの入った携帯を持ったまま普通に生活します。Bluetoothによって常に同じアプリを持つ携帯を感知するシステムで、1.5m以内に15分以上存在した場合に限り互いの携帯アプリ内に互いのID情報が渡ります。暗号化されており個人情報は含まれません。

このID情報は21日間、アプリ内に保管されたあとで消去されます。

 

 

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陽性反応が出た際、アプリに保管されてるIDを医療当局に送信(任意)

どこかのタイミングでコロナの検査を受け、陽性反応が出た場合、感染者の持つアプリ内に蓄積された濃厚接触者のID情報を保険医療当局に送ることが可能。ここで情報を発信するかすら、本人の任意となってます(まぁ断る理由はないでしょうが)。

 

 

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当局から濃厚接触者へと一斉に「接触者の誰かが陽性だったよ!検査しよう!」と警告発信

すると、保険医療当局は登録されているID情報を元に連絡先へと警告を発信。この際、実際に誰が感染したか等の個人情報は一切含まれず、「貴方が21日以内に濃厚接触した誰かから陽性反応が出ましたよ。コロナの検査を受けてくれると嬉しいな」と送られてくる。

 

こんな感じ。いらすとやさんはほのぼのするなぁ。

 

 

 

とにかくプライバシーに極限まで配慮したであろうシステムです。

GPSによるトラッキングのほうがはるかに簡単でより多くの有益な情報を得られるにも関わらず、あえてのBluetoothにしている点。プライバシーを尊重して個々の追跡を極端に減らす配慮です。

また、暗号化された情報は送信されるまでは個々の携帯にしか蓄積されないシステムなので、常に情報を第三者に抜かれるわけではない点。その個々に蓄積されている情報も電話番号や氏名ではなく、あくまで暗号、つまり文字数時の羅列だけなので個人には何の意味もなさない。

 

何より全てが任意。このアプリをインストールすることも任意だし、もし陽性反応が出たとして、アプリ内の情報を当局に送る部分まで任意。アプリをいつ消去しようと全くお咎めなし。

データにアクセスできるのは保健医療当局だけで、極端な話をするとアプリを持ったまま誰から犯罪を起こしても警察は情報開示ができません。

 

よって結構好意に受け入れられてる模様。

当初オーストラリア政府はアプリのリリースから5日間で100万人の登録者を目標に掲げていましたが、リリースから12時間で113万人が登録した模様。24時間で200万人を突破。国民の関心が伺えます。

このアプリ、ぶっちゃけインストールした当本人にはほとんどメリットも無く、ただただ「本当に個人情報守られてんのか」という疑念と、常時動きっぱなしのBluetoothによる携帯電池の消耗しかありません。一応、誰か知らない濃厚接触者が感染していたら通告を貰えるというメリットはあるんだけどね、知ったところで自分の命が助かる代物ではないのよ。

それでもこのアプリを入れるのは「医療関係者を助けたい」「一丸となって戦いたい」という意志だと捉えてます。見直したぞオーストラリアよ…。

 

 

果たしてこのアプリが大きく機能するレベルまでインストール数が増えるのか。

そしてロックダウンの規制が緩和されてから感染者数はどう動くのか。

今後の経済難をどう乗り越えるのか。

課題は山積みだけど、現状のオーストラリアは良い展開だと思います。