とある獣医の豪州生活Ⅱ

豪州に暮らす獣医師のちょっと非日常を超不定期に綴るブログ

とある獣医の豪州生活Ⅱ

病院に来るキバタンは大体がハゲ【PBFD】

看護師「AKI、もうすぐキバタンを保護したっていう人が来るよ」

AKI 「あー、はい。またハゲかなぁ…」

 

オーストラリアの動物病院では度々野生動物が担ぎ込まれる、というお話は前回のハトの記事でも触れましたが、ハトの場合ですとヒナやら事故やらが多く、これが大型のオウムとなるとまた違った予想がすぐにたってしまうのです。

 

 

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キバタン(Sulphur-crested Cockatoo)。写真はWikipediaから。

オーストラリアはオウム属の天国です。至る所にインコやらオウムやらが飛び回ってます。ペットとして皆さんお馴染みのセキセイインコオカメインコ等、メジャーなインコ・オウム類は大体が豪州原産の鳥なんですね。

 

ハトや小型のカラスの類は基本的に地表で餌を探してる場合が多く事故に遭いやすいし、子育ても人間の多い住宅地で行ってしまうことが多いのでヒナや事故個体が持ち込まれます。

が、オウム類は頭が良く樹上生活をメインにしてることもあってそこまで頻繁に持ち込まれません。ましては上記のキバタンみたいな大型になると尚更。でも、こいつらが頻繁に「保護」される理由が豪州には一つありまして、それがPBFDです。

 

インコの病気に関心のある鳥好きにはお馴染みの恐ろしいアレですが、一般にはほとんど認識されてないアレ。

Psittacine Beak & Feather Disease(オウム類嘴羽根病)、略してPBFDですね。

病名そのまんまのウイルス性疾患でして、オウム類のクチバシと羽根に影響を及ぼす病気です。クチバシや爪、羽根等の奇形化や壊死を誘発する病気で、発症・悪化するとクチバシはひび割れ羽根は抜け落ちるという中々恐ろしい病気。

 

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担ぎ込まれたキバタン。みすぼらしいハゲになってしまってる。

 

ウイルスにガッツリやられると上のような子になってしまう。

こいつも「飛べなくなっていた」ところを「善良な市民」に「保護」されて、1週間ほど餌等を上げて経過を看ていたらしいのだが一向に改善しないので病院に寄越したらしい。そりゃ羽根が残ってないので飛べないですよ。

 

このPBFDウイルス自体は鳥の命を直接奪うようなことはなく、免疫系の低下による二次感染で死に至るか、羽根が抜け落ち飛行困難となり、野生においては餓死してしまったりする。かなり惨い最期となってしまう。

治療法は現代獣医学において確立されておらず、垂直感染(親から子への感染)の他にも水平感染(個体から個体)の力も強い、まさにオウム界におけるゾンビウイルス。日本でもペットとして輸入されるインコ・オウム類において感染がジワジワ広がってます。

 

残念ながら野生に還せる子はいなく、保護団体も水平感染の可能性がある個体を受け入れられないので彼らは全て安楽死となります。

 

オウム大国であるオーストラリアには絶滅が危惧されるオウム類も多く存在し、それらのオウム類にこのウイルスが広がると個体数に大打撃が出かねないのだけれど、残念ながら治療法の研究は全然進まないのだ。理由はおよそ非常に簡単で、研究費が無いからだと思われる。オウムを救っても社会にほとんど貢献が無いから、ごく一部の鳥好きの関心はあっても大衆の関心が得られない。よって、研究しようにもできないのである。

世の中、動物を救うには金が必要です。そして金を得るには人の完全なる善意か第三者の利益が必要となる。キビシイ。そんな世界に普段から暮らしてます。

 

 

ついでにオウム達から我々人間も学ばなければならない。

PBFDに感染・発症した鳥は上の写真のように大層みすぼらしい姿となってしまうわけなんですが、群れで生活をするオウムの仲間達はこういう個体を仲間はずれにしたり苛めたり、群れから追い出したりしないのだ。だから風切羽が残っている限りはハゲた個体は健康な群れと一緒にそこら中を飛び回ってるし、一緒に食事をして一緒に休憩して一緒にグルーミングをしてる。

 

そこには外見による差別が無い。優しい世界。