とある獣医の豪州生活Ⅱ

豪州に暮らす獣医師のちょっと非日常を超不定期に綴るブログ

とある獣医の豪州生活Ⅱ

ベストを尽くして最悪の結末をみる

獣医さんのお仕事って、どんなものを思い浮かべますかね。

子犬や子猫と戯れるお仕事。馬さん牛さんを助けるお仕事。そんな楽しいポジティブな内容も勿論あるんですが、世の中どんなお仕事でも楽しい事ばかりじゃないわけで。

 

例えば、病状をしっかりと把握して、鑑別診断をして、そこから確定診断に向けての検査をしっかりとして、結果を待つ間に暫定診断で最善と思われる治療を即時開始して、帰ってきた血液検査から確定診断を得て、暫定診断が正解で、その治療法が最善であることを確認できた状態で、つまりベストを尽くせている状況で。

 

それでも動物は死ぬときは死んでしまう。

 

ベストを尽くして、最悪の結末を迎えてしまうこともあるの。

 

それが一日に連続で起きたりするの。

そんな日です。

 

 

担当医として最善を尽くしたと思ってるし、実際これ以上状況を改善できたであろう面が見つからなかったとしても、全く理論的ではない、感情的な後悔に襲われるのは若手だからですか?

ベストを尽くしているのにジワジワと体力を削られて目の前で目の奥の生気が抜けていく子犬。

出来うる最大限の鎮痛剤を投与しても一向に収まらない痛みに反抗する老犬。

 

 

世の中、無理なものは無理ですなぁ。

完璧なヒーローは存在しないのだ。スーパーマンがニューヨークの平和を守っている間でも、アフリカで子供が餓死するし、なんならロサンゼルスで交通事故が起きる。

 

 

自分、基本的に誰かに電話することが苦手です。

そもそも英語が第二言語の時点で、「面と面、向かい合って話す」ことのほうが圧倒的にラクに感じるのは仕方ないのです。電子的な言葉のやり取りでは得られない、ジェスチャーや表情といったコミュニケーション情報が多い分、対人のほうが理解しやすいし意思を伝えやすいのだ。実際、コミュニケーションのうち80%以上は言葉以外で行われるものなのだから。

でも仕事柄、常に飼い主さんとのコミュニケーションをとる必要があります。入院患畜の報告、追加で必要な検査の承諾、治療経過の確認・・・一日に何本も何本も電話します。

 

そのうちこのブログで深く掘り下げる気でいますが、獣医さんを目指している若者達が気付き難い部分がこの「コミュニケーション能力の必要性」だったりする。どうも動物好きは対人コミュニケーションを苦手とする人が多い(自分もそうだ)。

「動物相手のお仕事だし、人とあまり関わらなくていいだろう」

なんて思っていたら獣医は無理。動物は何も喋ってくれないから、むしろ人一倍、飼主さんとの意思疎通が大事になってくる。オーストラリアの大学では5年かけてコミュニケーションテクニックを学び続けるくらいに難しく、そして大事な技術なのだ。自分もまだまだペーペーでございますが。

 

んで、基本的に電話が苦手という話なんだが、その中でも一番嫌いな電話が「訃報」を入れること。

動物は最期の言葉も遺書も残しません。死の代弁者になるのはいつでも我々。

これがまた非常に難しい。会話の流れをどう持っていくのが適切か等、技術として叩き込まれているモノですが、やはりいつだって精神的にくるのです。別にこっちはミスもしていないし最善を尽くしての結果なんで堂々とすればいいんですが、堂々なんてできねぇよなぁ。

ましてや場合によっては「死亡原因はほぼ飼主にある」状態だったりするんですよ。そりゃ故意に死亡させたら情状酌量の余地なしですが、獣医に駆け込んで助けを求めてくる飼主さんのほとんどは(ほとんど、ね…時々ヤバい人もいます)罪の意識バリバリで来ます。

「後悔先に立たず」

まさにこれなんですが、それでも訃報を届けると飼主さんは「あぁ、もっと○○しておけば…」の自責の念の嵐になり、負の感情爆発で脳機能が停止します。こうなると飼主さんの精神状態のケアを出来うる限り行うのもまた我々のお仕事の一環で、結果、動物治してるはずが人間の精神医状態になるわけで。

が、獣医さんとて人間です、相手の負の感情には自分も当てられます。

しかも当事者だからね。「自分がもっと何か手をうっていれば…」という自責に簡単に置き換えられてしまうのだ。

 

 

まぁ、ベストを尽くしてダメだった時はこの後悔が最小限に抑えられるのでマシなんですけどねー。他に打つ手はなかったわけだから、後悔のしようがありませぬ。

次は助けよう。次がダメでもその次はきっと助けよう。ベストを尽くせるようにベストを尽くすのみ。

 

 

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つらくなったら顕微鏡を覗け。

好中球が笑顔を分けてくれるのだ!